| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-055 (Poster presentation)
鳥類の卵は、細菌などの病原体の侵入を防ぐさまざまな生体防御機構を備えている。環境と直接接触する卵殻表面は、鉱化されたワックス状の構造を持ち、ヒドロキシアパタイト結晶、多糖類、脂質、および糖タンパク質からなる薄いクチクラ層で覆われている。この卵殻表面を覆うクチクラ層が細菌の侵入を防ぐ効果については、ツカツクリ科鳥類の卵殻表面には凹凸構造が見られ撥水性が高く、細菌の付着や侵入を防ぐことが報告されている。同様に、他の鳥類の卵殻表面でも、細菌感染リスクを防御する機構が備わっていると考えられるが、これまでほとんど注目されてこなかった。そこで、卵殻表面において撥水性に寄与していると考えられる脂質に注目し、本研究を行った。
本研究では、営巣環境の異なるスズメ目鳥類であるスズメ Passer montanua、シジュウカラParus mionrおよびヤマガラ P. varius の3種を対象に、卵殻表面に存在する脂質を定量し、繁殖ステージに伴う変化を比較することを目的とした。
2019年5月初旬から8月下旬までの期間に、スズメについては東海大学札幌キャンパスとその周辺施設に、シジュウカラとヤマガラについては札幌市羊ケ丘実験林に巣箱を設置し、産卵期の巣から卵1つずつを採取した。また、産卵期や抱卵期に捕食者による攪乱などで放棄された巣から残された卵を採取した。採取した卵はアセトンに浸漬し、表面の脂質を抽出した。得られた脂質について、SPV(Sulfo-Phospho-Vanillin)法による脂質量の定量を行い、総脂質量を求めた。その結果、シジュウカラでは卵表面の脂質量は産卵期よりも抱卵期の方が有意に増加していた。ヤマガラとスズメについては、サンプル数が少なく統計的な比較はできなかったが、いずれも産卵期より抱卵期で高い値を示す傾向があった。