| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-061  (Poster presentation)

流域の水文特性が水生昆虫の羽化パターンに与える影響とその考察
Effects of hydrological characteristics of mountain streams on aquatic insect emergence

*西尾太希(北海道大学), 石山信雄(北海道立総合研究機構), 森本淳子(北海道大学), 中村太士(北海道大学)
*Daiki NISHIO(Hokkaido University), Nobuo ISHIYAMA(Hokkaido Research Organization), Junko MORIMOTO(Hokkaido University), Futoshi NAKAMURA(Hokkaido University)

河川水生昆虫の羽化は、河畔に生息する陸生捕食者にとって重要なエネルギー補償であり、捕食者の分布に大きな影響を与える。そのため、河畔の生態系の構造を理解するためには、水生昆虫によるエネルギー補償の影響を考慮することが重要である。水生昆虫の羽化量を左右する要因の一つに、水温や洪水攪乱といった水文特性が挙げられる。また、第四紀に形成された火山性地質には地下水が豊富に存在することが知られ、この地質を流域に持つ河川では年間の水温、水位変動が小さい。そこで本研究では「流域地質を介した水文特性の違いが水生昆虫の羽化パタンに影響を与え、最終的に河畔の捕食者の分布にまで波及する」という仮説を立てた。
これを明らかにするため、2018年8月~2019年7月に調査を行った。石狩川水系空知川の支流から、流域地質が第四紀火山岩層(安山岩、玄武岩)、軽石流堆積物層である河川5河川、その他の地質である河川5河川を選択した。各河川の水文特性を調べるため、記録計で水温と水位を記録した。また、水生昆虫の羽化パタンを調べるため、各河川に1~2基のマレーゼトラップを設置した。水生昆虫の捕食者として、徘徊性のオサムシ科甲虫、クモ類を捕獲するため、各河川の砂礫堆に10個のピットフォールトラップを設置した。
火山性地質が流域内に優占する河川では、その他地質の河川と比べて、年間の水温変動と水位変動が小さく、年間を通じて水生昆虫の羽化量が多くなる傾向がみられた。しかし、羽化量と捕食者数には相関が見られず、地質間で捕食者の分布に違いは認められなかった。このように、地質による河川の水文特性の違いは、川から陸へのエネルギー補償を変化させると考えられるが、エネルギー補償の違いは徘徊性の捕食者数まで波及しないことが示された。今回の調査地が山地渓流であり、周囲の森林から供給される餌資源も多く、河川からの補償効果が低いことが原因の一つとして考えられた。


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