| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-069 (Poster presentation)
ハチクPhyllostachys nigra var. henonisは日本や中国など東アジアの温帯域に生育する大型のタケである。有用植物として古くから人々に利用され、各地で移植されたものが現在、野生化していると考えられている。本種の生活史は、長期にわたる栄養繁殖と一度の一斉開花・枯死で特徴づけられる、長寿命の一回繁殖型であり、古文献による開花情報から、120年の周期性があると推定されている。日本国内では、約一世紀前の20世紀初頭、各地で本種が一斉開花したという記録が残っており、その際、開花後に地上部が枯れるにも関わらず種子が実らず、生き残った地下部が起点となり次第に回復したという興味深い現象の記載がある。もし、ハチクがこのような繁殖様式をもつ場合、種子生産ができていないにも関わらず、多大な資源を繁殖器官(花序)へ投資して枯れることとなるため、無駄な繁殖を行なっていると考えられる。それでは、なぜ現在までこのような種が生存できているのか、などの疑問が湧くが、開花は過去約1世紀にわたってほとんど起こらなかったため、これまで定量的な評価・検討することができなかった。日本各地では、2010年代に入り、約一世紀ぶりに開花が見られ始めており、本種の繁殖生態を調べるにはまたとない機会となっている。そこで本研究では、2015年から2018年に一斉開花の見られた日本各地5つのハチク林分(主に兵庫県姫路市)と近隣の非開花林分を対象に、ハチクの繁殖生態に関する以下4つの問いに取り組み、定量的なデータをもとにハチクの生活史戦略について考察することを目的とした。4つの問いとは、(1)林分レベルで一斉に開花するのか、(2)種子は稔っているのか、(3)開花にともない炭素・窒素・リン・カリウムは繁殖器官へどの程度再分配されるのか、(4)開花後にも栄養繁殖様式は維持されるのか、である。本発表では、これらの結果を紹介し、ハチクの生活史戦略について議論したい。