| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-071 (Poster presentation)
日本の高山帯は寒冷地適応種の主要な逃避地であるが、北海道や東北地方の一部においては、低標高の風穴地や海岸域にもコケモモやエゾイソツツジ等の高山性植物が分布している。北海道のツツジ科高山性植物コケモモを対象としたこれまでの研究から、低標高個体群は高山個体群と倍数性・繁殖システムが異なる独自の生態型を有することが明らかになっている。本研究では、コケモモと同所的に分布するエゾイソツツジを対象に加え、本州の個体群を調査地に含めることで、低標高に分布する高山性植物の生態型について一般性を確かめることを目的とした。
コケモモ30個体群、エゾイソツツジ18個体群を解析対象とし、各種20~30個体から葉を採取した。フローサイトメトリーを用いた倍数性解析と、マイクロサテライトマーカー8種類を用いた遺伝解析を行った。また、高山・低標高を含むようにコケモモ5個体群、エゾイソツツジ4個体群について受粉実験を行い、自殖能力の有無や花粉制限の程度を調べた。
北海道と本州で共通して、コケモモについては高山個体群が殆ど2倍体、低標高個体群が殆ど4倍体であり遺伝的にも大きく離れていた。一方、エゾイソツツジについては、標高に関らず全個体群が4倍体であった。また、コケモモは低標高でのみ自家和合性が確認されたが、エゾイソツツジは標高に関わらず全個体群が自殖能力を有していた。
高山―低標高間でのコケモモの生態型変異は、北海道と本州で共通してみられることが明らかになった。対して、エゾイソツツジは高山―低標高間で生態型の違いがみられなかった。しかしながら、2種共に和合性を有する4倍体が低標高に分布するという共通した傾向が認められた。低標高環境は高山帯よりも植生が発達している為、より大型になりやすい4倍体が光の獲得に有利であった可能性が考えられる。