| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-072 (Poster presentation)
土壌微生物には植物と相互作用してその生育を支える働きがあり、また物質表面に付着してバイオフィルムを形成することにより生育に有利な場を作り出すことが知られている。我々はこれまでの研究において、土壌微生物の付着基質として、アルギン酸ゲルに着目してきた。アルギン酸はコンブなどの褐藻類から抽出できる多糖類であり、2価以上の金属イオンにより架橋されゲルを形成するが、鉄イオン架橋の場合は土壌微生物の付着・生育に適した足場となることが確認され、カルシウムイオン架橋の場合は不適であった。そこで本研究では、種子にアルギン酸ゲルによるコーティングを施すことにより、その後の植物の生育にどのような影響が及ぶかについて検証した。
本研究では、アブラナ科のダイコンをモデル植物として用い、まず鉄架橋またはカルシウム架橋アルギン酸ゲルによるコーティングを施した種子を作製した。コーティングを施していない種子をコントロールとして、計3種類の種子をそれぞれ培養土中に播種してグロースチャンバー内で培養した。播種1日後に発芽率を算出し、さらに播種後1日目、3日目、5日目の根の長さと根および地上部の乾燥重量を測定することによりその後の生育を評価した。
その結果、発芽率にはサンプル間で差がみられなかったが、発芽後の生育は鉄架橋アルギン酸コーティングを施した種子の場合に最も良好となり、カルシウム架橋の場合はコントロールと同程度であることが確認された。生育の違いは根において地上部よりも顕著であり、播種5日目の乾燥重量は、鉄架橋アルギン酸コーティングを施した場合はコントロールに比べ、根が約1.3倍、地上部は約1.1倍であった。
以上、本研究の結果から、鉄架橋アルギン酸は土壌中で微生物の働きを支えることにより、植物の生育を促進し得ることが示唆された。