| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-077 (Poster presentation)
生物の繁殖は有性生殖と無性生殖に大別され、植物の場合、その両方を行う種も多い。トリカブト亜属植物(Aconitum)も一般に種子と塊根によって繁殖するが、そのなかに、ムカゴ(珠芽)による無性生殖も行う種が存在する。日本でムカゴをつける本亜種の種は、2倍体のジョウシュウトリカブト(A. tonense) だけとされていたが、先年、京都市大原野森林公園に生育する4倍体のイブキトリカブト(A. japonicum subsp. ibukiense)集団中にもムカゴをつける個体が見いだされた。さらに、他の地点や他の種でもムカゴつき個体が発見されており、トリカブトにはムカゴをつける能力が潜在的に備わっている可能性が示唆される。また、産地によって集団中のムカゴつき個体の割合や結実量に違いがみられた。本研究は、ムカゴによる無性生殖と有性生殖にみられる関係を明らかにすることおよび京都府・滋賀県におけるムカゴつきトリカブトの分布調査を目的とした。
これまでに、8地点のイブキトリカブト集団中にムカゴつき個体を発見した。そのうちの4地点、京都府の①大原野森林公園と②花背、滋賀県の③葛川と④箱館山平池の集団を対象に調査を行った。それぞれの集団において1 m四方の区画を3-4個設け、結実していた花器官およびムカゴつき個体の割合を調査した。その結果、各地点の(結実していた花器官:% , ムカゴつき個体:%)は①(0 , 83)、②(19, 39)、③(40, 11)、④(80, 27)となった。このように、大原野森林公園において結実は確認されず、ムカゴつき個体の割合は最も大きくなった。その他の集団は、よく結実したがムカゴつき個体の割合は小さく、2要素間にはトレードオフの関係があるようにみえる。これは産地によって集団維持に寄与している繁殖体が異なる可能性を示している。無性生殖は有性生殖の代替機構として進化したと考えられている。それぞれの繁殖体が集団の維持や分布拡大にどのように貢献するのか検討する必要がある。