| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-078  (Poster presentation)

多様な開花期を示すアキノキリンソウ生態型の時系列トランスクリプトーム解析
Seasonal transcriptome of Solidago virgaurea ecotypes with diverse flowering time

*阪口翔太(京都大学), 永野惇(龍谷大学), 石川直子(東京大学), 堀江健二(旭川市北邦野草園), 瀬戸口浩彰(京都大学), 伊藤元己(東京大学)
*Shota SAKAGUCHI(Kyoto University), Atsushi NAGANO(Ryukoku University), Naoko ISHIKAWA(Tokyo University), Kenji HORIE(Northern Wild Plants Garden), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto University), Motomi ITO(Tokyo University)

 キク科アキノキリンソウは北海道の低地蛇紋岩地と高山帯に進出し,それぞれに生態型を形成している.この二つの特殊環境はハビタットとして大きく異なるが,生態型としては共に早期開花性を進化させている.その適応的意義として,蛇紋岩地では盛夏の旱魃を回避するために初夏に開花することが,生長期間が短い高山帯では融雪後に早く開花することが考えられている.また局所適応の産物としての開花期シフトは,同時に生態型間の隔離にも関わっている.そのため,早期開花性の遺伝的基盤を解明することは自然選択による種分化の理解に重要である.そこで本研究では,共通圃場で2つの特殊生態型と祖先型(遅咲きの低地林床型)を栽培し,開花期を通した遺伝子発現変動を生態型間で比較することで,開花期変異に関連する遺伝子を抽出することを目的とした.
 京都市内の圃場において,2019年4月下旬から高山型,5月上旬から蛇紋岩型,そして6月上旬から祖先型の開花が始まった.3型の開花期は同一環境下でほぼ重複しないことから,それぞれに開花遺伝子ネットワークに異なる遺伝的変異をもつことが推察された.3月頭から6月末までの4か月に渡り,各週で葉における遺伝子発現を網羅的にモニタリングしたところ,開花遺伝子群の中で3型の開花期順に対応した発現を示したのは,フロリゲン遺伝子FTおよびその下流の花芽形成に関わる遺伝子であった.祖先型と蛇紋岩型を対象にしたゲノムスキャン解析では,FT上流領域において344bpの欠失変異が蛇紋岩型で検出され,その領域は隣接する祖先型ハビタットとの間で極めて高い遺伝的分化を示した.以上の結果より,FTの発現調節領域における変異が選択されることで,蛇紋岩型集団に早期開花性が広まった可能性が考えられた.一方で高山型については今回の解析では候補遺伝子を絞り込むことができなかったため,今後更なる検証を行う必要がある.


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