| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-080 (Poster presentation)
固着性生物の植物にとって同種個体間での送粉は有性繁殖における重要な過程である一方,異なる種間での送粉はしばしば種の存続を脅かす.とりわけ,種間送粉で生じる雑種の適応度が低下する場合,不適応な雑種形成に繁殖への投資が浪費され個体群成長率が低下し,少数派の種が急速に排除される.このとき,花粉が移動しうる範囲内での複数種の共存は,種間送粉を抑止する受粉前生殖隔離によって実現すると考えられる.日本列島はサトイモ科テンナンショウ属が最も多様化した地域の一つで,野外ではしばしばテンナンショウ2~6種が混生している.さらに,いくつかの種間では染色体数の違いから雑種不稔が生じる可能性が指摘されている.そこで本研究では,テンナンショウ属複数種の共存を支える受粉前生殖隔離機構を解明することを目的に,兵庫県北西部のハリママムシグサ(染色体数:2n = 26)とムロウテンナンショウ(2n = 28)の混生集団において2年間にわたって開花期(季節的隔離)と訪花昆虫相(送粉者隔離)の種間差を検証した.その結果,いずれの年でもハリママムシグサがムロウテンナンショウより早く開花していたものの,開花期間は集団レベルで25日ほど重複していた.両種とも開花期間長は45~50日程度なので,重複期間は全開花期のおよそ半分にあたる.訪花昆虫の大半は,両種ともキノコバエ科・クロバネキノコバエ科の双翅目昆虫であったが,それぞれの種に異なるキノコバエ類が特異的に訪花していた.年による訪花昆虫相の変動は認められたものの,キノコバエ相の種特異性は変化しなかった.さらに,調査地から15 km以上離れた複数箇所で両種の訪花昆虫相を追加調査した結果,キノコバエ相の種特異性に明確な地域差は無かった.以上のことから,テンナンショウ2種間では,季節的隔離は強くないが強固な送粉者隔離がそれを補強することで効果的に種間送粉が抑制されていると考えられた.