| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-083 (Poster presentation)
葉の光合成能力は展葉時から減衰するため、資源獲得の最大化には葉寿命の最適化が不可欠となる。しかし、草本の場合、葉は貯蔵器官としても機能し、その資源が最終的に繁殖器官に転流される。そのため、常緑の多年草では、展開時期により葉寿命の長さや決定要因が変わるかもしれない。本研究では、多年草であるハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)を対象に2年間、毎週、葉寿命の調査を行ない、気象と葉寿命との関係を解析した。さらに、葉寿命の決定要因を明らかにするため、葉の被陰・露出処理とシンク切除処理の2つの操作実験を実施し、自己被陰・転流の有無が葉寿命にどのように影響するかを検証した。また、シンク切除実験ではRNA-seqを用いて、遺伝子発現の変化を比較した。 その結果、春から夏に展開する葉と、秋から冬に展開する葉では寿命のパターンが大きく異なることがわかった。春から夏に展開した葉は相対的に短寿命で一定期間経過すると順次枯死することが明らかとなり、寿命は展葉期間中の平均気温と負に相関した。これらの葉では、露出した葉は被隠した葉より平均寿命が長くなり、自己被陰も寿命の決定要因の一つであることが示された。秋から冬に展開する葉は、相対的に長寿命であるが、春の繁殖期に同調して枯死するため早く展開した葉ほど寿命が長いという結果となった。これらの葉では、寿命と環境要因との関連は検出されなかった。シンク切除した個体の葉は対照個体の葉より平均寿命が長くなり、老化遺伝子に関して差が検出された。このことにより、秋から冬に展開する葉では繁殖器官への転流により一斉に枯死していると考えた。以上より、葉寿命は春から夏は物質生産効率で寿命が決定し、秋から冬は繁殖器官への転流のタイミングにより決定されることが示唆された。今後、葉寿命の決定要因が異なる2つのタイプ葉について、解剖学的形態、貯蔵物質、光合成機能の比較を行う必要がある。