| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-084 (Poster presentation)
マリモ(Aegagropila linnaei)は北半球の高緯度地方に広く分布する淡水緑藻の1種で,糸状体とよばれる藻体が集まって球状の集合体を形成することで知られるが,生成過程については不明な点が多い。本研究では,アイスランドのミーヴァトン湖で生育状況の異なる7集団について形態と生育環境を比較し,集合体の構造を類型化するとともに生成過程を推定した
調査の結果,既知の浮遊型と着生型が湖内に広く分布していることに加え,7カ所で集合型の群生を確認した。集合体の構造は,糸状体が同一方向に並んだ「配列型」と無秩序に絡み合う「纏綿型」の2つに大別され,前者はさらに,糸状体が中心から外に向けて放射状に配列し球状を呈する「球状集合体」と,糸状体が並列し楔状あるいはそれが成長して楕円状を呈する「楕円状集合体」に2分された。さらに,球状集合体には,直径が10 cmを超え真球状になる「大型球状体」と,最大直径が2 cmほどで表面に付着点の痕跡である陥没を1カ所有する「付着型球状体」が認められた。大型球状体の集団には,球状体が破損して生じた断片に由来する楕円状集合体が混成しており,これが再び球状体に成長すると考えられた。他方,付近の岩場では,密生した着生型の糸状体が塊のまま基質から剥離した楕円状集合体が生成されており,大型球状体由来の楕円状集合体との間で形状や糸状体密度(集合体を楕円体と見なして得られた単位体積あたりの乾燥重量)に有意差は認められないため,着生型由来の楕円状集合体が大型球状体の始原になっているものと推察された。これに対して,付着型球状体とその破損断片と見られる楕円状集合体は,生育場所の骸泥からなる底質や懸濁物の多さが影響するせいか,直径が3 cmを超えることはなかった。以上から,集合体の構造と生成・維持機構は,始原となる着生型および浮遊型の生育状況および底質・光環境・水深などの環境要因によって多様化している実態が明らかになった。