阿蘇では野焼きを通じて人為的に草原が維持されている生態系である。林業活動に限らず、こうした営み無しでは森林化する阿蘇で草原が維持されることは、生物多様性や景観など、様々な恩恵を社会にもたらしていると考えられる。降水-流出関係を地点間、あるいは処理間で比較した研究における、森林よりも草原で蒸発散が低いとする結果は、阿蘇の草原維持による水源涵養を示唆している。しかし、こうした研究は、異なる気象条件下の、また日本とは全く異なる生態の森林や草原を対象にした知見を多く含むことから、そこで得られてきた知見が阿蘇の森林-草原間の比較に有効であるかどうか確証は持てない。本研究では、近年開発された手法を用いて代表的な草本植生であるススキとササの個体レベルの蒸散速度の計測を通じて、草本群落の蒸散速度を算出する。得られた蒸散速度を森林で知られている水準と比較することで、阿蘇の草原の水源涵養機能の有無、およびその評価を行う。