| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-089 (Poster presentation)
温帯地域において樹木の開芽・展葉タイミングは個体の生産性に影響する主要因である。共存する常緑広葉樹と落葉広葉樹を比較すると、一般に落葉広葉樹のほうが開芽時期が早いことが知られている。植物の生産性に着目すると開芽時期よりも葉の成熟時期(生産性が最大になる時期)が重要であるものの、同所的に共存する常緑広葉樹と落葉広葉樹の葉の成熟期の差や、葉の開芽から成熟期の種間差と被食率の関係は不明である。本研究では、愛知県豊田市の暖温帯二次林の林床に共存する常緑広葉樹と落葉広葉樹を対象として、2019年3〜7月にかけて毎週展葉フェノロジーを調査するとともに定期的に葉を刈り取って葉の形質と被食率の季節変化の関連を調べた。
この結果、平均的な開芽時期は落葉樹では4月上旬、常緑樹では4月中旬であり、その差は10日程度であったのに対し、展葉完了時期は落葉樹では4月下旬、常緑樹では5月中〜下旬であり、差は25日程度だった。また、LMAは展葉初期に減少し、その後やや増加して一定になるパターンの種が多かったものの、落葉樹と常緑樹で一貫した傾向の差は見られなかった。窒素濃度は初期に急激に減少し、定常に達する種が多く、初期の減少の度合いは落葉樹のほうが常緑樹よりも大きい傾向が見られた。窒素濃度を葉の成熟度と仮定すると、落葉樹よりも常緑樹のほうが展葉完了時期と葉の成熟時期の差が大きかった。このことから、多くのフェノロジー研究において着目されるような開芽時期や展葉完了時期をもとに生産性の差を判断すると、その差を過小評価する可能性があることが判明した。また、葉の被食率は開芽から展葉時期に高く、葉が成熟した後には少なかった。さらに発表では葉の形質の季節変化と被食率の関係についての考察を行う。