| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-094 (Poster presentation)
ナニワズは7月中旬に落葉、8月下旬に越冬葉を開葉し、春には春葉を追加開葉する。夏落葉は林床が暗い時期の葉維持コスト節約戦略と考えると、まだ暗い9月に開葉するのはなぜか? 一般に、葉は開ききった直後に光合成活性が一番高いことを考えると、9月に開葉するのは理解しにくい。葉の物理的防衛が確立するまでは被食に対して脆弱なので、その間、窒素を葉に充填するのを控える戦略(遅延緑化)で早めに開葉し、上木が落葉する頃に光合成活性の高い時期を合わせているのではないかと考えた。また、春葉は2ヵ月しか維持しないことから越冬葉と比べて低質の可能性が考えられる一方、林床が明るく、多くの光合成生産が可能な時期なので高質となっている可能性もある。そこで、SPADとSLAを指標として、越冬葉と春葉の葉特性を調べた。
無雪期間、特定の11個体の葉数を毎週数えた。また、SPADで葉緑素量を測定した。6月7日に別の5個体から健全な越冬葉と春葉を1枚ずつ採取し、SLAとSPADを測定した。光環境は閉鎖林冠下の2カ所で、HOBOの光量子センサーで測定した。
越冬葉のSPAD値は開葉後も増加し10月頃安定した。開葉後すぐの値と、値が安定した10月以降の平均値の比は約0.72で、弱程度の遅延緑化と考えられた。しかし、10月以降も林床の光環境はほとんど改善せず、越冬葉は暗い光環境下で成熟葉を展開していた。春葉のSPAD値は越冬葉の約70%だった。6/7に採取した越冬葉と春葉のSPADとSLAの関係では、一本の個体を除いて、いずれも春葉のSPAD値が越冬葉より低く、SLAはより広かった。
越冬葉の開葉時期は、遅延緑化で上木落葉のタイミングに合わせたものではなかった。また、春葉は越冬葉より低質の葉だった。