| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-102 (Poster presentation)
かつて豊かな森林生態系が成立していた大台ヶ原の東部では,現在,森林の衰退が進行しササ群落が拡大している.森林衰退の原因のひとつであるシカによる採食を排除するために建設された防鹿柵の内側で顕著なのは,林床を覆っていたササの現存量の増加であった.このため,以前受けたシカによる剥皮のみならずササによる水消費が,生残したトウヒ成木の水分吸収を抑制している可能性がある.これを明らかにするため,2001年度に設置された柵内に生育するトウヒ成木の樹液流速を観測し,トウヒ成木の樹液流速に影響を及ぼす自然環境ならびに生態的要因をモデルによって明らかにした.柵内に設置された2つの調査区(40m×40m)において選定された計18個体のトウヒ成木を対象に,1個体につき1~3個のグラニエセンサーを用いて樹液流速を2019年5月から10月まで継続観測した.その結果,樹液流速は,自然環境のなかでも全天日射量や大気飽差から強い正の影響を受けていることが認められ,トウヒ成木の樹液流速の日変化パターンは,全天日射量と大気飽差に類似した日変化パターンを示した.生態的要因についてみると,成木の樹液流速は,樹高,幹の剥皮割合,辺材面積などの要因によるモデルによって説明できた.ほとんどのトウヒ生残木の幹には,18年前の柵設置以前につけられたシカによる剥皮痕が残存しており,その辺材部では通導面積の縮小による通水阻害を被っていることが示唆された.このように,ニホンジカによる幹の剥皮は,トウヒ成木の樹液流速に長期的影響を及ぼすことが明らかになった.