| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-107 (Poster presentation)
光合成は葉緑体内部のチラコイド膜およびストロマでの酵素反応を多く含むため、強い温度依存性を示す。このため低温は光合成速度の低下をもたらすとともに、その分、余剰となった光エネルギーは光合成器官に損傷を与え(光阻害)、植物の成長悪化につながる。そのため、寒冷な気候に適応した植物は、低温に対して膜や各酵素の性質を変化させて光合成の低下を抑えたり、光阻害を抑えるための光防御機構を高めていると考えられている。実際、筆者らが世界中の様々な緯度や標高から集められたシロイヌナズナエコタイプを用いて、低温での光阻害修復能力(損傷を受けた光化学系の修復能力)の差を調べたところ、由来地の気温と修復能力に有意な負の相関が見られた。このことから、寒冷地域の植物では低温で高い光阻害修復能力を持つような適応が起きている可能性があることを、2018年の日本生態学会で発表した。
この結果は、光阻害修復能力以外にも、低温での光合成速度や光防御機構に強い選択圧が働いていて、由来地の気温が異なるシロイヌナズナエコタイプ間で種内変異が見られる可能性を強く示唆している。そこで、本研究では光合成器官の保護機能として近年大きく注目されている、光合成の電子伝達反応内でのエネルギー分配に注目した。光合成電子伝達には光化学系IIとIの二つの光エネルギーを利用した駆動機構があり、両者のエネルギー分配が電子伝達系の保護に重要だと考えられている。そこで、この光化学系IIと光化学系Iの電子伝達の温度依存性が上記のシロイヌナズナエコタイプ間でどのように異なっているのかを解析し、由来地の環境パラメーターとの関連の検出を試みた。