| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-111 (Poster presentation)
落葉果樹であるリンゴは、発芽初期の成長に樹体内の貯蔵養分を利用する。初期成長に利用される貯蔵炭素は、前年に葉で同化された炭素であると考えられるが、前年のどの時期に同化し貯蔵された炭素がリンゴの初期成長に寄与するのかについての知見は乏しい。
本研究では、主に生育期間の前半において、時期別(開花7、21、42、57、70、84及び140日後)にリンゴ(ふじ)3年生幼木を炭素安定同位体標識二酸化炭素(15 atom% 13C)に約8時間ばく露し、果実収穫期に一部の個体を刈り取って、各器官試料中の13C濃度を測定した。その後、残りの個体を予冷庫内で越冬させ、翌春に屋外に搬出し、開花期に花、葉及び当年枝を採取し、試料中の13C濃度を測定した。
一年目の収穫期に刈り取った個体の葉、当年枝、幹、台木及び太根の13C濃度は、開花21日後にばく露した個体において高い傾向が見られ、当年枝及び台木では他の日にばく露した個体と比較して有意に高かった。一方、旧年枝では、開花7日後にばく露した個体で高い傾向が見られた。このように、生育の初期段階において同化された炭素が樹体内に残存しやすいことが示唆された。
二年目の開花期に採取した花、葉及び当年枝の13C濃度は、一年目の開花21日後にばく露した個体において高い傾向が見られ、花では一年目の開花7、57、70及び84日後にばく露した個体と比較して有意に高かった。一年目の収穫期の各器官13C濃度と二年目の開花期の各器官13C濃度との関係を調べたところ、一年目の収穫期の当年枝、台木及び太根の各13C濃度と二年目の開花期の花、葉及び当年枝の各13C濃度との間に高い正の相関が見られた。一般に、前年の生育期間の後期に貯蔵された養分の影響が大きいとされるが、初期段階に同化された炭素も翌春の地上部の初期成長に寄与する可能性が示された。
(本発表は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。)