| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-118 (Poster presentation)
都市部では反射や輻射熱により葉温が50℃を超えることがあり,植物の葉の光合成を担う酵素や葉緑体のタンパクが変性し,光合成機能が衰退するといった懸念がある.そこで,都市緑地を健康的に持続させるための長期的な温暖化対策が望まれるが,科学的知見に基づいた対策はまだ確立されていない.本研究では,街路樹として使用される落葉樹3種(ハナミズキ・ケヤキ・モミジバフウ),常緑樹6種(シラカシ・シマトネリコ・タブ・トウネズミモチ・ネズミモチ・ヤマモモ)を用いて,高温に対する葉の光合成機能の順化能力を比較した.気温差による熱ダメージや高温に対する順化様式の違いを調べるために,茨城県つくば市と北海道紋別市の野外に苗木を設置し地域間比較を行った.また,つくば市内の温室にて苗木に加温処理を施した.葉の高温耐性および温度順化能力を比較するために,葉を加熱した際の光量子収率(QY)および最大光合成速度(Amax)の最適温度(Topt)を測定した.常緑樹のシラカシ・ヤマモモは,地域間比較・加温試験ともに高温耐性が5-7℃高くなった.ネズミモチ・トウネズミモチ・タブの3種の当年葉は,地域間比較・加温試験ともに高温順化はみられず,タブのような南方産の樹種であっても高温順化能力が高いとは限らないことが示された.また,高温期に順化した種の多くは高温期を過ぎると葉の特性が元に戻った.ケヤキ・ネズミモチ・トウネズミモチのToptは,加温処理によって高くなった.一方,トウネズミモチ・ヤマモモでは温度上昇に対してAmaxが低下しにくくなる順化反応がみられた.都市緑地における温暖化適応策においては,ただ南方系の樹種を植栽するといった方法ではなく,高温に対するそれぞれの樹種の順化能力を考慮した樹種選定が望まれる.