| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-131  (Poster presentation)

葉と根の分解過程における菌叢遷移 -2.5年間にわたる室内培養実験-
Microbial succession in leaf and root decomposition process observed in 2.5-years laboratory incubation

*谷川東子(名古屋大学大学院, 森林総研関西), 眞家永光(北里大学), 平野恭弘(名古屋大学大学院), 溝口岳男(森林総研関西), 藤井佐織(森林総研), 松田陽介(三重大学大学院)
*Toko TANIKAWA(Nagoya University, Kansai FFPRI), Nagamitsu MAIE(Kitasato University), Yasuhiro HIRANO(Nagoya University), Takeo MIZOGUCHI(Kansai FFPRI), Saori FUJII(FFPRI), Yosuke MATSUDA(Mie University)

植物リターの分解は、土壌の生化学・理化学性を支配する最重要な森林生態系プロセスの1つである。従来、森林生態系で集中的に解析されたリターとは、地上の落葉を指していた。しかし現在その視点は、植物の全器官に拡大してきている。中でも葉のように、季節に依存し発生・枯死を繰り返す「細根リター」について、分解速度に焦点を当てた研究は増えつつある。しかし「葉や根が、微生物を養う力はどのように異なるのか?」という、基質―分解者間の応答に関する情報は不足しているのが現状である。そこで我々は、スギ・ヒノキ成木の葉と細根の室内培養実験を2年半行い、時系列の分解残渣について次世代シーケンス法を用いて菌叢(細菌・真菌)を解析した。培養ゼロ時間には、試料採取林の表層土壌を蒸留水に溶かし濾過した溶液を基質に添加し、土壌微生物を供給した。その後は人工雨(栄養補給のため)や蒸留水(水分補給のため)を定期的に添加し、20度で培養した。
細菌・真菌とも、基質が葉、細根にかかわらず操作的分類群数(OTU, 相同性≧97%)は時間と共に増加し、葉の増加率は根のものを上回った。両樹種の細根から検出された菌叢は、葉のそれよりも類似性が高い傾向が、ネットワーク解析により示された。それぞれの樹種と器官で、特異な群集構造が形成されていることが、非計量多次元尺度法により示された。また時間と共に菌叢の多様性が増えることが、入れ子解析により示された。我々は同一実験で、葉リターから得られる溶脱液には微生物由来のDOCが細根のそれより高濃度で含まれること、葉の分解速度や分解呼吸速度は細根より高いことを報告している(Tanikawa et al. 2018 STOTEN)。先行研究と本研究の結果から、葉が養う菌叢は、細根のそれより多様性が高く量も豊富で、また2器官・2樹種にはそれぞれに特異性の高い菌叢が時間と共に形成されるが、細根の菌叢は両樹種間で類似性が高いと推察された。


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