| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-134 (Poster presentation)
バイオチャーは生物由来の有機物を低酸素下で熱分解した炭化物で、大気炭素の隔離に効果的な資材として注目されている。それらの農地への散布は、土壌改良を通して植物の生産性を高める一方で土壌有機物の分解を加速させるなど、生態系の炭素収支に大きな影響を与えることが報告されている。本研究は高い炭素固定能と広大な面積を有する森林生態系を対象に、バイオチャー散布が樹木による炭素固定(純一次生産;NPP)、微生物による有機物分解(従属栄養生物呼吸;HR)、そして生態系全体の炭素収支(生態系生産;NEP)に与える影響を明らかにし、炭素隔離法としての効果を議論した。
暖温帯コナラ林において方形区(20 m×20 m)に、バイオチャーをそれぞれ0、5、10t/haで散布した(n=3)。NPPは生態学的手法により測定された幹、葉、生殖器官、粗大根、細根生産量の和とした。HRはトレンチ法により根呼吸と分離された土壌表層からの炭素放出速度より推定した。NEPはこの両者の差とした。
バイオチャーの散布によって積算されたNPPに有意な差は認められなかったが、それを構成する要素のうち、花や実といった生殖器官のみが散布区で有意に増加した。これは、散布によって窒素やリンが供給され、固定された炭素の分配先が変化したことに起因すると考えられる。一方、積算されたHRに有意な差は認められなかったが、各月の炭素放出速度においては有意な差が認められた。これは、散布によって土壌中の保水能が向上し、有機物分解が加速したことに起因すると考えられる。それらの結果、積算されたNEPは散布によって有意な差は認められず、むしろ減少する傾向であった。この減少した炭素量はバイオチャーとして散布された炭素量と比較すると2~6年で相殺すると見積もられるが、その効果は3年の間で徐々に減少していた。以上のことから、バイオチャーはNEPに大きな影響を長期に与えることはなく、それ自体が持つ炭素量が隔離効果として寄与すると示唆された。