| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PA-135 (Poster presentation)
炭素・窒素安定同位体比を用いた生態系の食物網構造解析では、採取可能な生物でしか同位体比を測定することができないため、採取困難な微生物についての生態系内での役割を評価することができない。そこで本研究では核酸に着目した。しかし、そもそも核酸の同位体比が測定された例はほとんどなく、核酸の同位体比から菌体の同位体比を推定できるかという最も基礎的な情報も存在しない。本研究では、安定同位体比測定に適した核酸の抽出方法の開発と、バクテリア菌体―核酸間での同位体比の差を明らかにすることを目的とした。
培養している脱窒菌(Pseudomonas aureofaciens)を用いて、核酸の抽出と同位体比測定を行った。嫌気・好気条件で脱窒菌を培養し、ニッポン・ジーン社の核酸抽出キットISOPLANTとISOPLANT IIを用いて核酸を抽出した。抽出した核酸はエタノール沈殿後、洗浄し風乾させた。また、菌体は凍結乾燥させた。乾燥した核酸と菌体は微量試料用に一部改良したEA/IRMSにて炭素・窒素安定同位体比を測定した。
脱窒菌の菌体と抽出した核酸の炭素・窒素同位体比はいずれも培養条件(嫌気・好気)による違いは見られなかった。脱窒菌菌体とISOPLANTで抽出した核酸の同位体比の差は炭素で−2.2 ± 0.9‰、窒素で+7.7 ± 0.8‰と、大きな差が見られたが、その差の変動は小さかった。この結果は、核酸の同位体比は菌体の同位体比によって決定されていることを示唆している。また、ISOPLANT II抽出物では核酸の精製が不十分であるため同位体比測定に適していないことが明らかとなった。