| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-141  (Poster presentation)

溶存無機炭素の安定同位体比による凍土融解に伴う高緯度北極湿地からの炭素流失の評価
Export of inorganic carbon from a high arctic peatland with permafrost thaw estimated by the stable isotope composition of dissolved inorganic carbon

*近藤美由紀(国環研), 藤嶽暢英(神戸大学), 高橋浩(産総研), 内田雅己(極地研), 林健太郎(農研機構), 大塚俊之(岐阜大学)
*Miyuki KONDO(NIES), Nobuhide FUJITAKE(Kobe Univ.), Hiroshi A TAKAHASHI(AIST), Masaki UCHIDA(NIPR), Kentaro HAYASHI(NARO), Toshiyuki OHTSUKA(Gifu Univ.)

 北極域では、急速な温暖化が永久凍土融解を促進させ、温室効果ガスを発生させて温暖化を加速させる可能性が指摘されてきたが、近年では、永久凍土のなかでも氷を特に多く含む部分が融解すると、従来考えられていたより多くの温室効果ガスが放出されるとの報告もなされている。湿地は水域と陸域の交わるところに存在し、還元環境下で多量の炭素をストックする一方で、水を介した物質の移動があり、溶存態としての炭素流出が起こる。しかしながら、高緯度北極における観測例は不足しており、永久凍土の融解が湿地生態系の炭素循環に与える影響だけでなく、さらに沿岸域への炭素流出とその影響など、十分な考慮がなされていない。本研究では、北緯78度にあるノルウェー領のスピッツベルゲン島の湿地生態系を対象として、湿地上流から下流の複数地点における溶存態無機炭素(DIC)の濃度と炭素同位体比を調べることで、DIC濃度の時空間変動とその要因を明らかにすることを目的とした。
 雪解け後の2016年7月から8月に、湿地およびその上流から下流の小河川で水試料を採取し、pH、EC、DIC濃度とその炭素安定同位体比の測定を行なった。DIC濃度の空間的な分布は、湿原の上流から下流に向けて増加し、6.0 mg/Lから22.6 mg/Lであった。湿原下流では、7月中旬から8月中旬の1ヶ月間のDIC濃度の変化は17.5 mg/Lから29.9 mg/Lで、地温の上昇とともに増加する傾向にあった。一方、炭素安定同位体比は、湿原の上流から下流の8地点で、最大-5.1‰から最小-8.3‰のばらつきが見られた。本発表では、DIC濃度の時空間変動とその要因に関して、炭素同位体比を用いた解析結果を報告する。


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