| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-148  (Poster presentation)

砂巣トビケラの巣材選好性における集団内頻度分布の周期的変動 【B】
Cyclic oscillation in the material preference of case-bearing caddisfly larvae 【B】

*岡野淳一(京都大学)
*Jun-ichi OKANO(Kyoto University)

砂で筒型の可携巣を作るフタスジキソトビケラ幼虫(Psilotreta kisoensis)は、巣内壁と体の摩擦を軽減させるために、石英などの表面の肌理が滑らかな砂(砂表面の数マイクロメートルの微細な凹凸)を巣材として選好する。しかし、集団内での個体差に着目すると、滑らか砂を強く選好する個体と、相対的に選考性が低い個体が共存しており、集団内変異が見られる。また、選好性における個体数の頻度分布には三峰性が認められ、強い選考性を示すSpecialist、低い選考性を示すGeneralist、中間型のIntermediateの3つ多型があることが分かった。ところで本種幼虫は、繁殖時期である5月までに1年間で成熟サイズに達すれば羽化・繁殖し(1年1化)、達しなければ次年度も幼虫生活を送るため(2年1化)、越年個体と新規加入個体が世代重複することが分かっている。そこで2014年から6年間、野外集団の型比の年変動を、越年集団と新規加入集団それぞれで調査した。その結果、集団内でSpecialistが優占する年と、Generalistが優占する年が交互に現れる型比の振動が認められ、されに越年集団がSpecialist優占の年は、新規加入集団がGeneralist優占になり、逆振動していることが分かった。飼育実験の結果からは、巣材選好性が高い個体ほど成長速度が速いことが分かっており、個体に着目した単純な最適理論では3型共存の説明が付かない。なお、砂巣材は無尽蔵に存在しており、巣材競争を巡る負の頻度依存選択は働かない。また、山地の湧水に生息する本種の分散力は極めて低く、他地域からの移入や、環境の空間異質性によるものとも考えにくい。本発表では、世代間の相互作用や、型間交配実験の結果も紹介しながら、型比変動と多型維持の考えられるメカニズムについて議論したい。


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