| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PB-151 (Poster presentation)
多くの哺乳類は雌が出生地周辺に留まる定住性を示すのに対し、雄は自らの出生地から離れた場所へ分散し、繁殖を行う。北海道に生息するヒグマのミトコンドリアDNAハプロタイプは道南型、道央型、道東型の3つのクラスターに分かれることが知られている。知床半島においては、雌では道東型に属するハプロタイプのみが確認されており、その一部は地理的に偏って分布している。一方雄では雌と比べて分布の偏りは少ないものの、軽微な偏りが認められることから、母系遺伝子の分布解析だけでは雄の分散傾向を評価することは困難であった。また、雄では知床半島基部において道央型ハプロタイプを有する個体が稀に認められるものの、雌と同様にその多くは道東型であり、知床半島内外でどの程度遺伝的交流が行われているのかは明らかになっていない。そこで本研究では父系遺伝するY染色体に着目することで、知床半島内を雄ヒグマがどのように移動分散しているのか、また半島内外における遺伝的交流の程度を評価することを目的とした。解析には1998年から2018年にかけて知床半島で得られた雄ヒグマ490個体のDNAサンプルを用いた。Y染色体上に存在するマイクロサテライト6座位の多型を検索し、Y染色体のハプロタイプを分類した。その結果、先行研究で知床半島において報告されていた2つのハプロタイプに加え、新たに3つのハプロタイプが確認され、このうち1つは北海道内において初めて確認された。すべてのハプロタイプは半島内に偏りなく分布しており、雄ヒグマが複数の世代にわたり知床半島全域へと分散し、繁殖を行ってきたことが示された。また、知床半島内で確認されたハプロタイプのうち4つは道央で、そのうち2つは道南でも共通して確認されていたことから、知床半島内外において世代を越えて遺伝的交流が生じてきたことが示唆された。