| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-153  (Poster presentation)

キタオットセイにおける個体群構造の検討
The examiantion of population structure of Northern Fur Seal

*中鉢蒼(北海道大学), 北夕紀(東海大学), Rolf REAM(NOAA), 三谷曜子(北海道大学)
*Aoi CHUBACHI(Hokkaido Univ.), Yuki F KITA(Tokai Univ.), Rolf REAM(NOAA), Yoko MITANI(Hokkaido Univ.)

 キタオットセイ Callorhinus ursinus はオホーツク海やベーリング海,カリフォルニア沖の島を繁殖場とし,多くのメスが生まれた島で繁殖する.1800-1900年代前半に毛皮を目的として乱獲されたが,保護された後に個体数が回復した歴史がある.しかしながら近年,アラスカのプリビロフ諸島では急激な個体数の減少,ロシアのチュレニー島では増加が報告され,島嶼間で増減に差が生じている.このような状況下で本種の保全管理を考えるためには,集団構造を明らかにすることが重要である.ミトコンドリアDNA (mtDNA) のD-loop領域 (375bp) とマイクロサテライト7遺伝子座を用いた先行研究では,ロシア繁殖集団とアラスカ繁殖集団での遺伝的分化はほとんど見られないとされた.本研究ではmtDNAのD-loop領域 (229bp) とcyt-b領域 (1197bp),そしてマイクロサテライト13遺伝子座について新たに解析を行い,より詳細に遺伝的集団構造を明らかにすることを目的とした.
 主要9繁殖島にて採集した新生子432個体の皮膚サンプルから,mtDNAのD-loop領域において220個,cyt-b領域において163個のハプロタイプが検出された.両領域共にハプロタイプ多様度は高いが (h=0.988; h=0.981),塩基多様度は低かった (π=2.6; π=0.5).集団構造解析による集団間の遺伝的分化は小さく (FST=-0.004~0.012; FST=-0.005~0.068),ネットワーク図では近年の集団の放散が示されたことから,乱獲によるボトルネックの影響により,遺伝的個体群差はほとんどないことが明らかとなった.マイクロサテライトによる集団構造解析では,アメリカのプリビロフ諸島繁殖集団とロシア繁殖集団,ロシアの千島列島繁殖集団とアメリカ繁殖集団にて小さな遺伝的分化を示した (FST=0.005~0.014; FST=0.005~0.010).一方で遺伝的クラスタリングの結果,K=1またはK=2の値を示し、地理的に分化していることを示すものではなかった.以上より,本種の遺伝的集団構造を海域間で分けることは難しいことが示唆された.


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