| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PB-155 (Poster presentation)
多数の地点で同時に行われる,市民参加型の一斉調査などの観測個体数から,調査地点における生息個体数を推定したい.そのために,一部の調査地点で捕獲再捕獲法などの繰り返し調査を実施し,そこで推定した対象生物の発見確率を用いて,繰り返しのない調査地点を含む全調査地点の生息個体数を推定する統合個体群モデルを提案する.統合個体群モデルとは,背後にある生態プロセスで生じる変動と,観測プロセスで生じる誤差という,意味と性質の異なる2 種類のばらつきを分離して,生息個体数を推測する階層モデルである.全ての地点で詳細な調査を行うのに比べて,少ない労力で全調査地点の生息個体数を推定できる.
また,生物はモデルに組み込まれた共変量(植被率、気温など)のみに従って,存在するわけではない.生物の分布は,移動や繁殖により拡大・縮小するため,近い調査地点の生息個体数は,遠い調査地点に比べて似ていると考えられる.それは通常,モデルの誤差としてあらわれる.この誤差には,1)生物の拡散など分布によるもの,2)未測定の空間相関のある共変量によるもの,3)測定誤差などランダムな変動がある.1)と2)はBYM(Besag, York and Mollié)モデルを用いて,空間相関のあるランダム効果として,3)の空間相関のない誤差と分離して取り出すことができる.それは生物の分布や隠れた共変量の発見につながる.
本研究では統合個体群モデルと,BYMモデルを改良したBYM2モデル(Riebler, A. et al. 2016)を統合し,統計分析言語RとStanを用いたマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法によってシミュレーションを行った.シミュレーションでは,100調査地点を格子状に配置し,乱数を用いてデータを生成し,各調査地点の生息個体数を推定した.また,半分の調査地点に一定値の誤差を加えて分析を行い,空間相関のない誤差と,空間相関のあるランダム効果を分離し視覚的に表してみた.
Riebler, A. et al. SMMR 25, no. 4 (2016): 1145-1165.