| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PB-161 (Poster presentation)
生物の形質は撹乱等の環境変化に応答することが知られている。動植物群集を対象とした生態学研究において形質値は、異なる種ごとに算出した平均値を扱っている。しかし、この方法では同種内の個体差(種内変異)を反映することができない。種内の形質差が種間の形質差に比べて無視できないほど大きい場合、環境変化に対する群集の形質への応答プロセスの理解において、種内変異を考慮することは不可欠である。形質に影響を及ぼす撹乱の一つとして大型草食動物による過採食が挙げられる。これは植物を資源とする節足動物群集に対して影響を及ぼす。本研究はシカの採食圧から植物を保護するため、防鹿柵の設置された北海道の知床国立公園内の幌別天然林で実施した。この場所は防鹿柵の設置により、柵外はシカ採食圧の影響を受ける環境、柵内はその影響を受けない環境という二つの異質な環境に分かれている。この場所で地上徘徊性甲虫の群集を対象にシカ採食による環境撹乱に対するサイズ形質への応答を、防鹿柵内外という二つの異質な環境と種内変異を考慮して評価した。サイズの種内変異を考慮するため、以下3つの異なるスケール (1) 全体 (2) 防鹿柵内外 (3) プロットに分けて種ごとに全長の平均値を求め、それを相対優先度で重みづけした群集の平均値を算出した。これらを比較することで、シカ採食圧の有無による二つの環境の巨視的な異質性と各プロット間の微細な環境の異質性がどのようにサイズ形質の応答に影響を及ぼすのか検出した。解析の結果から、防鹿柵内外という二つの環境の異質性がサイズ形質に与える影響は、同種内の個体差よりも種間の差が大きいことがわかった。また、シカ採食圧による植生の減少に伴い、群集の平均サイズが小さくなることがわかった。これらの結果は、シカの過採食が大型地上徘徊性甲虫の生息地にとっての制限要因であることを示唆しており、撹乱による群集集合のパターン解明に貢献している。