| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-162  (Poster presentation)

東北地方日本海側の冷温帯林におけるタヌキの食性の季節変化
Seasonal changes in the food habits of raccoon dogs in a cool temperate forest on the Japan Sea side around the Tohoku region

熊谷南望, *斎藤昌幸(山形大学農学部)
Nami KUMAGAI, *Masayuki U SAITO(Yamagata Univ.)

野生動物の生態を明らかにするうえで食性情報は重要である。日本に生息するタヌキについては、比較的多くの分析事例があるものの調査地が関東地方に偏っており、それ以外のさまざまな気候や環境の地域で研究を蓄積する必要がある。本研究では、調査事例の少ない東北地方日本海側の冷温帯に生息するタヌキの食性とその季節変化を糞分析により明らかにした。
2018年12月から2019年11月にかけて山形県鶴岡市高館山周辺における20ヶ所のタメフン場から計126個の糞を採取した。糞はハンドソーティング法を用いて分析し、餌項目ごとの出現頻度(FO)を算出した。食物構成の季節変化は、月間および季節間の食性の非類似度に基づく主座標分析(PCoA)と、月および季節ごとに算出したLevins’ measureに基づく食性ニッチ幅によって明らかにした。
糞分析によって出現した餌項目のうち、年間を通してFOが高かった項目は昆虫類(85.7%)、種子(81.7%)、果肉(69.8%)であり、先行研究における一般的な傾向と一致していた。出現した果実の主要種はオオウラジロノキ、サルナシ、ケンポナシなどで、月ごとに主要種は異なっていた。哺乳類(4月FO: 90.0%)・鳥類(3月FO: 81.8%)・甲殻類(6月FO: 90.9%)は季節的に高頻度で出現し、それ以外にミミズ類も夏から秋にかけて利用していた。これらの結果は、本調査地に生息するタヌキも他地域と同様に、生息環境下で入手可能な食物を状況に応じて利用していることを示している。また、PCoAと食性ニッチ幅の結果から、季節変化にともなう食物構成の変化は冬から春への変化が最も大きく、その際に食物構成が多様化することが示された。ただし、月間でのPCoAの結果から、食物構成の変化のタイミングに先行研究とのずれがみられ、生息地の気候の違いが反映されている可能性が示唆された。


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