| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-163  (Poster presentation)

ツキノワグマの食性における変異性
Variability in the food habits of Asiatic black bears

*森智基, 中田早紀, 瀧井暁子(信州大学)
*Tomoki MORI, Saki NAKATA, Akiko TAKII(Shinshu Univ.)

 ツキノワグマの食性に時間的変異(季節変化と年次変動)が存在することは広く知られている。しかしながら、これまでの食性研究の多くは個体群レベルで実施されており、個体レベルでの食性は注目されてこなかった。近年、個体群内の個々のツキノワグマが異なる食物を利用することが明らかにされている。このことは、食性の時間的変異が個体間で異なる可能性を示唆している。ツキノワグマの食性の時間的変異を正しく理解するためには、個体レベルでの食性研究を実施したうえで時間的変異について再考する必要があるだろう。そこで、本研究ではツキノワグマの食性の時間的変異を個体レベルで明らかにすることを目的とした。
 2017~2019年にかけて、長野県上伊那地域で捕獲されたツキノワグマの成獣20頭(オス10頭、メス10頭)にGPS首輪を装着し、滞在地点において当該個体の糞を採集した。採集した糞はポイントフレーム法によって分析し、各個体の食物構成を相対重要度指数によって評価した。本研究では、2018年と2019年にそれぞれ372個と512個の糞を採集した。春にはすべての個体が木本・草本類もしくは残存堅果を採食していた。一方で、初夏には多くのクマが草本に加えサクラ属やイチゴ属、昆虫を採食していたが、その食物構成は個体によって大きく異なった。また、一部の個体は初夏になっても草本を中心に採食していた。晩夏でも草本、果実、昆虫といった様々な食物が利用され、その食物構成は個体によって大きくことなった。一方、10月以降になるとすべての個体がブナ科堅果に依存していた。これらの結果は、食性の季節変化はすべての個体でみられるものの、そのパターンは個体によって異なることを示唆するものであった。また、2年間継続して糞を採集できた個体を対象に、個体レベルでの年次変動を検討した。その結果、食物構成の年次変動は春と秋では小さいが、夏には大きいことが明らかとなった。


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