| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-170  (Poster presentation)

木曽川ワンド群におけるイタセンパラ局所集団の遺伝的動態
Genetic dynamics of Itasenpara bitterling population in the Kiso River

*山崎裕治(富山大学), 北村淳一(三重県総合博物館), 池谷幸樹(アクア・トトぎふ), 森誠一(岐阜協立大学)
*Yuji YAMAZAKI(University of Toyama), Jyun-ichi KITAMURA(Mie Prefectural Museum), Koki IKEYA(Aquatotto Gifu), Seiichi MORI(Gifu-Kyoritsu University)

濃尾平野を流れる木曽川には,複数のワンドが集中して存在するワンド群が,流程に沿って点在している.筆者らはこれまでに,国指定天然記念物のイタセンパラAcheilognathus longipinnisについて,集団遺伝学的解析を行い,本種がワンド群を局所的な生息地としたメタ集団構造を呈することを明らかにしてきた.しかし,調査したワンド群や個体数が限られており,集団構造やワンド群間の交流パタンの詳細は明らかになっていない.そこで本研究では,生息域のほぼ全域から得られた標本を用いたマイクロサテライトDNA分析を行った.まず,ワンド群および流域全体のそれぞれの階層において,ハーディ・ワインベルグ平衡(HWE)からの逸脱を検定した結果,流域全体の階層においては,ほとんどの遺伝子座において,HWEからの逸脱が認められたが,ワンド群の階層においては,HWEから逸脱した遺伝子座数は少ない傾向が示された.この結果は,ワンド群間において,自由な交流が保たれていないことを示唆する.次に,対応分析の結果,河川右岸のワンド群と左岸のワンド群との間で,集団の遺伝的組成が異なり,中洲のワンド群の集団はそれらの中間的な遺伝的組成を示した.また,ベイズ推定に基づく集団構造解析において,2つの祖先集団の存在が推定され,それらに由来する遺伝的特徴の保有率は,右岸のワンド群と左岸のそれとの間で互いに異なったが,中洲のワンド群では両祖先集団由来の遺伝的特徴を概ね均等に保有していた.さらに,遺伝子流動量を推定した結果,いずれのワンド群においても,遺伝子移入の9割近くが同一河岸のワンド群に由来した.以上の結果から,木曽川に生息するイタセンパラにおいて,ワンド群間の交流は,主に同一河岸内で生じており,河川を横断する交流には,流心部の流れが障害となっているが,中洲の存在が河岸間の交流の維持に寄与していることが考えられる.


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