| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PB-174 (Poster presentation)
隠岐諸島は島根半島から北方約50 kmに位置する離島である。約2万年前の最終氷期最盛期の海面低下で陸続きとなり、島根半島の先端となっていた。そして、約1万年前に地球温暖化により海面が上昇し、陸橋が水没した事で離島環境となることを繰り返し、現在に至る。このような島の成り立ちから、隠岐諸島には特異な生態系が形成されていると考えられる。一方で、隠岐諸島に生育している植物の遺伝学的な研究は未だ希薄である。カツラは、隠岐諸島の島後を含む日本各地の渓畔林に生育しており、風媒・風散布の繁殖様式を示す雌雄異株性の落葉高木である。先行研究では、カツラのSSRマーカーを用いた遺伝解析によって、日本本土内の集団間で遺伝的分化は低く、集団内では広範囲に及ぶ遺伝子流動が明らかにされている。そこで本研究では、現在の隠岐諸島に分布しているカツラの遺伝子流動を調べ、隠岐諸島の集団の遺伝的な特徴を明らかにすることを目的としている。
隠岐諸島島後の布施でサンプリングされたカツラ集団の成木、実生、種子を用いた。28個体の成木、149個体の実生の遺伝子型を12座のSSRマーカーを用いて決定した。決定された遺伝子型を基にCervus ver.3.0.7を用いて、解析した。
隠岐諸島のカツラの成木集団において、各遺伝子座の対立遺伝子数は4〜15の値をとり、平均値は10だった。ヘテロ接合度の観察値 (HO) は0.103〜0.897の値をとり、平均値は0.546、期待値 (HE) は0.286〜0.925の値をとり、平均値は0.7388だった。ヌル対立遺伝子の推定頻度は-0.0242〜0.5873で近交係数 (FIS) は-0.049〜0.631だった。ただし、FISの値が大きく、ハーディー・ワインベルク平衡から逸脱する遺伝子座が多かった。この原因の1つとしてヌル対立遺伝子の存在が考えられ、解析に用いた遺伝子座が親子解析に用いることができるのかを再度検討する必要があると考えている。