| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-177  (Poster presentation)

ハイマツの標高傾度に沿った伸長成長 ―3山域からみえる生育環境と気温との対応―
Shoot growth of alpine dwarf-pine Pinus pumila along the elevation gradients: Response to the habitat and temperature in three mountain regions

*雨谷教弘(国立環境研究所), 高橋耕一(信州大学・理), 小熊宏之(国立環境研究所)
*Yukihiro AMAGAI(NIES), Koichi TAKAHASHI(Shinshu Univ.), Hiroyuki OGUMA(NIES)

 日本の山岳景観を特徴づけるハイマツの伸長成長は、夏の気温と正に相関し、各山岳地域で増加傾向にある。一方、分布変化は山域や標高で傾向が異なり、北アルプスは20%弱拡大し(立山3㎢を解析)、高標高ほどその拡大率は高い。対して利尻岳は30%近く減少し(22.7㎢を解析)、特に低標高部と西斜面が減少著しく、ササへ変化している。これらのことから、伸長成長も分布変化同様に標高や斜面方向、ササの有無により異なる傾向があると考えられる。
 そこで、分布拡大している北アルプス、減少している利尻岳(西斜面と北斜面)、更に北見山地(ハイマツの生育に、ササが伴う「ササ群集」とササが伴わない「典型群集」が同所的に存在)を対象に調査した。北アルプスは3標高地点、利尻は西斜面5標高地点・北斜面2標高地点、北見山地は各群集で、20本×20年分の伸長成長を測定し、回帰直線とGLMにより解析した。
 その結果、各山域とも、生育標高下限では伸長成長に増加傾向がなく、中標高域で伸長成長は最大となっていた。北アルプスは、高標高になるほど伸長成長の増加傾向は大きく、分布拡大傾向と一致していた。利尻は、西斜面で伸長成長が大きいが、増加傾向は北斜面の方が強かった。北見山地は、典型群集よりササ群集で伸長成長が小さかった。
 従って、伸長成長の傾向は、低標高という夏の気温が元々十分に高い環境では変化せず、高標高・北斜面といった気温が強く制限されている環境で増加しているため、ハイマツの成長によりよい環境へ変化しているといえる。また、利尻岳の西斜面では伸長成長は大きいが,伸長成長の増加傾向は弱く、ササに変化している。そのため、ハイマツの成長に好適な環境はササも侵入できること、そしてササ群集で伸長成長が小さいことから侵入後は競合を経て変化していくことが示唆された。以上より、ハイマツが拡大している山域(生育環境)も、今後はササへ変化していく可能性が高い。


日本生態学会