| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-182  (Poster presentation)

奈良公園で進化したオオバコの葉の倒伏形態 〜光応答性および形態形成の特徴について
Evolution of horizontal leaf angle in Plantago asiatica in Nara Park

*石川直子(東大院・総合文化), 高橋大樹(京大院・人環), 阪口翔太(京大院・人環), 伊藤元己(東大院・総合文化)
*Naoko ISHIKAWA(The University of Tokyo), Daiki TAKAHASHI(Kyoto University), Shota SAKAGUCHI(Kyoto University), Motomi ITO(The University of Tokyo)

 奈良公園では, 春日大社の神の遣いとしてシカが1200年ほど前から保護されてきたとされ, その植生にはシカによる食害の影響が顕著である. 例えば, シカの不嗜好性植物で有毒の木本植物であるアセビやナンキンハゼが優占するほか, 草本植物ではイラクサの刺毛の増加やイヌタデの矮化など, シカに喰われにくい形態への進化が報告されている. またオオバコは, 東アジアに広く分布する多年生草本であるが, このオオバコでは奈良公園や宮島をはじめとするシカの過密地において, 矮化形態が平行進化した可能性が指摘されている. 本研究では, そうした平行進化の分子機構解明のため, まず奈良公園のオオバコの矮化形質の特徴を明らかにする解析を行った.
 はじめに奈良公園と, その近隣のシカの生息密度が低い場所のオオバコ (奈良教育大学・実習園)の遺伝形質の違いを明らかにする共通圃場実験を行なった. 実験の結果, 奈良公園のオオバコは, 奈良教育大学のオオバコと比較して, 早く花芽形成が起こるほか, 葉と花茎が短く, さらに葉と花茎が強く倒伏することが明らかになった.
 モデル植物であるシロイヌナズナでは, 白色光下では葉が地面に倒伏するが, 遠赤色光照射に応答して葉を高く持ち上げること (避陰応答), また遠赤色光の受容と応答にはフィトクロムと呼ばれる色素タンパク質が関わることが明らかにされている. 本研究では, 白色光下で, 奈良教育大学のオオバコは葉と地面の角度を常に高く保つのに対し, 奈良公園のオオバコの葉は地面に倒伏するという形質の違いが, 両者の光応答性の違いに起因する可能性について検討した. その結果, いずれのオオバコも遠赤色光照射に対して葉を地面から持ち上げる応答を示したことから, 両者の遠赤色光への応答性には顕著な違いはないと考えられた. 今後は, 光応答についてさらに詳細な解析を行うほか, 葉の倒伏形態の進化に関わる遺伝子座同定のための解析を進める予定である.


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