| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-183  (Poster presentation)

多雪環境の歴史変化が植物の集団動態に与える影響
The impact of historical change in snowfall regime on plant population demography

*長澤耕樹(京都大学), 瀬戸口浩彰(京都大学), 福本繁(ABC プロジェクト), 石原正恵(京都大学), 沢和浩(山形県・天童市), 堀江健二(旭川市北邦野草園), 増田和俊(京都大学), 阪口翔太(京都大学)
*Koki NAGASAWA(Kyoto University), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto University), Shigeru FUKUMOTO(ABC project), Masae ISHIHARA(Kyoto University), Kazuhiro SAWA(Tendo, Yamagata prefecture), Kenji HORIE(Hoppo Yasoen), Kazutoshi MASUDA(Kyoto University), Shota SAKAGUCHI(Kyoto University)

 世界有数の多雪地帯である日本では,多雪環境に依存する特殊な植物群落が成立する.しかし,氷期には陸橋の形成により対馬暖流の流入が妨げられたことで,降雪量が減少したことが指摘されており,多雪植物が氷期の寡雪環境をいかに生き延びたのかについては十分な検証が行われていない.本研究で対象とするタヌキランは,北海道から京都までの日本海側に分布するスゲ属植物であり,多雪環境に由来する水湿斜面に生育するなど,そのハビタットは多雪環境との関連性が強い.そのため,本種の歴史的集団動態は多雪環境の変化の影響を強く受けたことが予想される.そこで本研究は多雪植物であるタヌキランを対象に集団遺伝解析を行うことで,多雪環境の変化に伴う植物の歴史的集団動態の解明を行うことを目的とした.
 EST-SSRマーカーに基づくSTRUCTURE解析の結果からは,タヌキランには5つの地域集団が存在し,分布の周縁部に位置する京都と秩父の集団が強い遺伝的浮動の影響を受けたことが明らかとなった.また遺伝的多様性と緯度との関係を調べた結果からは,分布の中心部から周縁部にかけて遺伝的多様性が低下していることが示された.近似ベイズ計算に基づく集団動態解析の結果からは,最終氷期に南北の系統が分化した後,各地域系統が分化したことが示唆された.さらに,最終氷期以降の集団サイズの経時変化を推定した結果からは,東北集団で集団サイズが安定していた一方,南方集団で集団サイズの減少が起こったことが示された.以上の結果より,タヌキランでは降雪量が減少したと考えられる最終氷期に,中部以南と東北以北に別の逃避地が存在したことが推察された.また最終氷期以降,東北地方では安定した積雪環境が存在した可能性が示唆された一方,南方集団では気温の上昇や分布域の分断化などの影響によって,分布周縁部で遺伝的多様性が失われたことが推察された.


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