| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-184  (Poster presentation)

本州と伊豆諸島の隔離環境下に生育するハコネコメツツジの進化過程 【B】
Evolutionary process between populations on the mainland and islands in Rhododendron tsusiophyllum 【B】

*渡辺洋一(千葉大学), 高橋美波(千葉大学), 永野惇(龍谷大学), 上原浩一(千葉大学), 阿部晴恵(新潟大学)
*Yoichi WATANABE(Chiba Univ.), Minami TAKAHASHI(Chiba Univ.), Atsushi J NAGANO(Ryukoku Univ.), Koichi UEHARA(Chiba Univ.), Harue ABE(Niigata Univ.)

島などの隔離された環境への植物の移入は、進化における地理的な隔離と生態的な過程の効果を理解する上で非常に有用な例となりうる。ハコネコメツツジは、伊豆諸島の2島と本州の山岳上部にのみ分布が制限されたフォッサマグナ要素に含まれる種である。本種の伊豆諸島への移入と進化の過程を明らかにするために、分布を網羅した8集団を対象にddRAD-seq法を用いたSNP検出(3284-4407 SNPs)を行った。
解析の結果、3つの地域(伊豆諸島、箱根、秩父)に対応した遺伝的分化が示され、外群(コメツツジ)に近く初期に分化したのは秩父地域であることが明らかになった。つまり、ハコネコメツツジの種分化は本州で生じ、その後に南方に位置する伊豆諸島方面へ移住したことが明らかとなった。また地域間の移住が見られず、山岳上部に分布が制限された生育状況によりそれぞれの地域が隔離していることが明らかとなった。SFSに基づく有効集団サイズとその変化を推定した結果、特に生育面積が限られた伊豆諸島集団で小さい集団サイズが長期間維持され遺伝的浮動が生じている可能性が示された。興味深いことに、伊豆諸島の生育環境は本州の2地域とは大きく異なり、秩父では冷温帯~亜高山帯、箱根では冷温帯環境に生育する一方で伊豆諸島では暖温帯環境に生育する。年平均気温で0.8~14.2℃に及ぶ生育環境の劇的な変化は、遺伝的浮動を伴う適応進化により生じた可能性がある。ただし、気温変化に関連付けられる自然選択を受けた可能性のあるSNP検出を試みた結果、わずか6SNPsの検出に留まった。


日本生態学会