| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-186  (Poster presentation)

シデコブシの前生稚樹による更新の可能性
Regeneration success of Magnolia stellata by advance regenerated saplings

*玉木一郎(森林文化アカデミー), 野村勝重(みどりの会), 野村礼子(みどりの会), 楯千江子(シデコブシと自然), 丹羽博樹(多治見市役所), 安藤公映(多治見市役所), 矢部由美子(多治見市役所)
*Ichiro TAMAKI(Gifu Ac. For. Sci. Cul.), Katsushige NOMURA(Assoc. Green Nature), Reiko NOMURA(Assoc. Green Nature), Chieko TATE(Assoc. Cons. Shideko. Nat.), Hiroki NIWA(Tajimi City Government), Kimie ANDO(Tajimi City Government), Yumiko YABE(Tajimi City Government)

 シデコブシは東海地方の低地の里山に生育する希少樹種である。近年,生育地の開発や植生遷移により個体数を減らしつつある。シデコブシは低木性樹種なので,植生遷移が進むと被陰され開花できなくなり,枯れてしまう。かつての里山利用の中でシデコブシは他の樹種と同様に伐採・利用されていた。その結果,明るい環境が保たれていた。シデコブシを保全するためには,ただ保護するだけでなく,シデコブシも含めて伐採して更新を促す必要がある。本発表では,皆伐後の前生稚樹と実生,萌芽更新個体の成長を比較し,特に前生稚樹の更新可能性について検討することを目的とした。
 2015年1月にシデコブシ自生地の20 m × 25 mの範囲内の1.2 m以下のシデコブシのサイズを測定し個体標識した。その後,同範囲を皆伐した。その際に,1.2 m以下のサイズのシデコブシの前生稚樹だけは伐採せず残した。その後,2019年まで毎年11月以降に,シデコブシの前生稚樹,伐採後に発生した実生,萌芽更新個体の樹高を測定し,花芽の有無を記録した。
 皆伐前に,195個体あった前生稚樹は,皆伐で26%が死亡した。5年後には99個体になった。皆伐から5年後の樹高の平均値は前生稚樹が83.2 cm,実生が44.3 cm,萌芽が251.1 cmであった。また,萌芽更新個体の45%は5年間の間に一回以上開花したが,前生稚樹は一度も開花しなかった。
 以上の結果より,前生稚樹は実生より大きく成長するが,萌芽ほど大きく成長できないことが分かった。このまま森林が発達した場合,萌芽更新個体は林冠層を形成することが予想されるが,前生稚樹や実生の大半はその下の層までしか大きくなれない可能性がある。光が不十分な環境下では開花できないため,これらの個体が繁殖集団に加わるためには,一回の皆伐では不十分であり,複数回の皆伐を繰り返す必要があることが示唆された。


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