| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-188  (Poster presentation)

ブナ・アカガシにおける分布域周縁部の個体群変化とその要因
Population dynamics and its factors in the marginal area of Fagus crenata and Quercus acuta

*遠山弘法(国立環境研究所), 小山有夢(東北大学), 角谷拓(国立環境研究所), 竹内やよい(国立環境研究所), 中静透(東北大学)
*Hironori TOYAMA(NIES), Ayu OYAMA(Tohoku University), Taku KADOYA(NIES), Yayoi TAKEUCHI(NIES), Toru NAKASHIZUKA(Tohoku University)

21世紀の間に生じた気候変動は、過去6500万年間で最大と言われている。特に温暖化は顕著で、世界の平均気温は100年あたり0.73度上昇し、日本では1.21度上昇している。先行研究では、温暖化に伴う生物種の北上、高所方向への移動が中緯度~高緯度地域で報告されており、メタ解析の結果、種の分布域は10年で16.9km 北上し、11m 高所へ移動している。日本では、ナガサキアゲハの北上、シカやサルの高所への拡大、シシアクチ、クサトベラ、タシロラン等の南方系植物の北上が観察されているが、広域における長期間の生物個体群の変化を検出した研究例はいまだ限られている。種分布モデルを用いた将来予測によると、日本の冷温帯林に特有のブナでは、南限付近での生育適地面積の減少と北限付近での分布拡大の制限が予測されており、特に分布の周縁部で衰退する可能性が示唆されている。一方、冬期の気温によって分布が制限される暖温帯を代表するアカガシにおいては、生育適地面積の増加、北方への分布拡大、および高所への分布拡大が予測されており、ブナの衰退後に侵入する可能性が示唆されている。本研究では、約40年前に全国に設置された特定植物群落の再調査を実施して、ブナとアカガシの温暖化に伴う個体群変化を明らかにすることを目的とした。変化が大きいと予想される分布域周縁部に注目し、トランセクトによる植生調査を実施し、過去との比較を行った。解析の結果、ブナの高木層では、個体群の変化と気候値の変化の間に有意な関係は見られず、明確な温暖化の影響は検出されなかった。低木層ではアカガシが温度上昇とともに増加する傾向がみられ、温暖化に伴う分布拡大が示唆された。発表では、これらの結果を示し、データの特性を考慮した解析法についても議論を行いたい。


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