| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PB-197 (Poster presentation)
多くの植物種はアーバスキュラー菌根菌(以下,AM菌)と相利共生関係を築くことで土壌中の養分を効率良く吸収することが知られている.熱帯・亜熱帯の汽水域に生育するマングローブ植物においては,AM菌に関する報告が限られていることに加え,AM菌感染の有無について報告間で相違がある.そこで本研究では,ヒルギ科の2種(ヤエヤマヒルギ・オヒルギ)のAM菌感染様式の解明を目的として,沖縄県西表島の後良川沿いの上流,中流,および下流に生育する稚樹の根内と根近傍土壌におけるAM菌群集構造の環境変動と樹種間差を検証した.SSU rRNA遺伝子を対象としたメタゲノム解析とUniFrac距離を用いた群集構造解析(PERMANOVA)を行った結果,AM菌群集構造に樹種間で有意差は認められなかったが,根内と根近傍土壌の間に有意差が認められた.この結果は,土壌に比べて根内で検出されるAM菌がGlomus属に集中していたためと考えられた.AM菌の環境応答を評価するために冗長性解析(db-RDA)を行った結果,Glomus属とAcaulospora属は土壌間隙水の電気伝導度との間にそれぞれ正および負の相関関係があることが示された.顕微鏡観察の結果,ヤエヤマヒルギでは計測を実施した9個体全てでAM菌は確認されず,オヒルギでは23個体中3個体でAM菌の樹枝状体が確認された.さらに,この3個体にはGlomus属ではなくAcaulospora属が優占していることがメタゲノム解析結果から示唆された.以上の結果から,ヤエヤマヒルギとオヒルギ稚樹の根内にはGlomus属のDNA配列が他のAM菌よりも高い頻度で検出されたが,これらの間で共生関係が築かれている可能性は低いと考えられた.一方で,塩ストレスが比較的低い環境ではオヒルギとAcaulospora属が条件的に共生関係を築いていることが示唆された.