| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-205 (Poster presentation)
北半球温帯~寒帯に分布する矮小草本キタミソウは、国内では農業用水や河川、池沼等の水位変動によって生じる減水裸地にみられ、本州以南では主に冬型一年草として生育する。これまで先行研究により発芽・繁殖特性(西廣ほか,2002、仮屋ほか,2012など)、植物社会学的位置づけ(鈴木ほか,2007)等が明らかにされているほか、利水サイクルと水位変動等の立地上の特性が生育条件として重要であることが示唆されている(ト沢,1981、工藤ほか,2000など)。
本研究ではキタミソウの生育適地となる水位・水分条件を明らかにするため、行田市の河川敷においてベルトトランセクトを3箇所設定し、2017年11月~2018年4月の農業用水落水後~湛水前まで、25地点の地下水位・土壌含水率の測定、個体群調査を実施した。さらに、キタミソウ植分の群落構造および群落の季節変化と個体群動態との対応について検討するため、関東地方10ヶ所において植物社会学的な植生調査を実施した。
その結果、土壌含水率は落水後間もない時期の各地点の差は少ないが、地下水位が低い河岸側では季節推移に伴い急速に低下し、キタミソウのラメット数・被度も減少して個体の多くが2月までに枯死した。一方、流路際では開花期間が長期化し、3月以降再びラメット数・被度の増加がみられた。この間、河岸側の地点の群落は、順次カズノコグサ-スズメノテッポウ群落などの春季一年生草本群落へ移行したが、地下水位・土壌含水率が高い流路際では春季までキタミソウ群集が持続した。
また、キタミソウ群集の組成表の検討の結果、下位単位として3亜群集3変群集が区分された。本群集には短期間に生活史を完結する一年生草本であるアゼナ群団の種が出現し、群落を特徴づけている。冬季にはキタミソウと開花期が重複する種は少ないが、随伴種に春季開花型のタウコギクラスの種の常在度が高く、土壌水分条件等に加えそれらの種の伸長状況が群落の持続性に関わっていると考えられる。