| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-206 (Poster presentation)
経済性の低下により里山林のアンダーユースが各地で広がり、農村の生物多様性の保全が課題である。一方、我が国では環境税として川下に集住する都市住民や企業より集めた公金を、川上に位置する森林管理に充てる事例も増えつつあり、保全効果の検証が求められている。本研究では、栃木県那珂川町小砂地区を事例に、そのような環境税により管理が再開された里山林での林床部の木本植物の種多様性の変化について報告する。小砂地区は栃木県北東部の八溝山地南部に位置する中山間地域である。1960年代までは炭焼きやタバコ栽培肥料とするための下刈り・落ち葉掻き等の生物資源利用に基づく里山管理が行われていたが、以降は管理放棄が進んだとされる。これに対し、2009より一部の里山林で企業の協力金及び環境税「とちぎの元気な森づくり県民税」を用いた林床の下刈り管理が再開された。そこで、10年管理継続区、それぞれ5年前・7年前に1回下刈り管理が入り以降は下刈りが行われていない粗放管理5年区、粗放管理7年区で、林床木本種の比較を行った。2019年夏期~秋期に10m2のコドラートを各8ヵ所設置し、高さ20cm以上の木本種(高木は除く)の種名・樹高・本数を記録した。種数は、10年管理区が平均21.9種で他の2区(14.6種及び16.5種)に対し、有意に高かった(Steel-Dwass検定,P<0.01)。個体数は、10年管理継続区(平均360個体)>粗放管理5年区(平均94個体)>粗放管理7年区(平均55個体)の順で有意差が認められた(同,P<0.01)。ただし、種別の本数割合では10年管理継続区と粗放管理区5年区がヤマツツジ、ウリカエデ、コナラ、リョウブ等の割合が高かったのに対し、粗放管理7年区ではコアジサイ、アオハダの占める割合が高く、立地的に異なっていると考えられた。両粗放管理区では下刈り実施後の林床でのアズマネザサの再度の優占が生じており、10年間管理を継続することで種数・個体数も多い里山林の林床空間が形成されることが示された。