| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-210  (Poster presentation)

青森県津軽地方におけるブナの長期成長傾向と気候応答の解析
Dendroclimatic analysis of Japenese beech in Tsugaru region, Aomori Prefecture

*石川幸男(弘前大白神センター)
*Yukio ISHIKAWA(Hirosaki Univ.)

わが国の森林においても、広域にわたって年輪幅の変動が同調していることが明らかにされ、年輪気候学的研究の進展が期待されている。しかし、温暖化による主要樹木の長期の成長傾向を明らかにした例は少ない。そこで、冷温帯落葉樹林の主要種であるブナの成長に温暖化が与える影響を明らかにする目的で、津軽地方南部、白神岳と岩木山の中腹のブナ林(標高約700mから900m)で調査を実施した。両山岳でそれぞれ21個体、12個体から2方向で年輪サンプルを採取し、年輪幅の長期動向と、毎年の気象条件への応答を解析した。採取した年輪サンプルは、0.01mm精度で年輪幅を計測したのち、標準的な年輪年代学の手法に基づいて照合して年輪幅時系列とした。これらの中には、ギャップ形成によるものと思われる年輪幅の急激な変化を示す系列も見られ、こうした系列は特に白神岳では多かったが、これらは除外した上で、急激な変化を示さない個体だけを解析対象とした。
一般に、周辺に競争相手がいないオープンな環境に生育する樹木では加齢にともなった年輪幅が減少し、その過程は負の指数関数で近似される。そこで、各時系列をまず負の指数関数で近似し、あてはまらない系列では傾きが負の直線を用いるか、全体の平均値に対して指数化することで加齢の影響を除外し、長期動向を検討した。これら各系列の年輪幅指数を平均したところ、白神岳、岩木山双方で、おおむね1980年ごろから年輪幅指数が顕著に上昇傾向にあることが確認された。この変化の時期は、1886年から気象観測が継続されている青森市における年平均気温の顕著な上昇時期とよく一致していることから、1980年ごろを境に、温暖化の影響によって成長が促進されていることを示すものと考えられる。
以上の結果に、毎年の年輪幅に影響を与える気象要因の解析結果を加えて、この地域において、温暖化がブナの成長に与える長期的影響を考察する。


日本生態学会