| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-214 (Poster presentation)
福島県会津若松市にある赤井谷地(海抜525m,面積43.6ha)は,盆地状の平低地に発達する真正の高層湿原といわれている。イボミズゴケ,ムラサキミズゴケ,ホロムイソウ,ホロムイイチゴ,ガンコウランなどの北方系植物が生育することで,1928年に国の天然記念物に指定された。しかし,湿原周辺は17世紀から始まる原野開発,戦後の水田・水路整備などで湿原内は乾燥化し,アカマツやチマキザサなどが周囲から侵入している。そこで,1999年に『赤井谷地沼野植物群落保存管理計画』が策定され,湿原植生の保護と復元を主体とする保存管理事業が開始された。
ここでは,湿原周縁のアカマツ林やチマキザサ群落などを本来の湿原植生に戻すために,湿原内外の地下水位を高める湿原湿性化事業に関して報告する。
2017年6月,赤井谷地の東縁を流れる新四郎堀(水深35cm)の中流1か所を板で堰止め,水深を98cmに設定した。その結果,水路沿いのソバ畑,スギ植林,チマキザサ群落,ノリウツギ低木林などは冠水し,植物の枯死が拡がった。この植生変化を追跡するために,2本の帯状調査区(ソバ畑を含むL1:延長101m,スギ植林を含むL2:65m)を設置し,2017~2019年の各10月上旬に植生調査を行った。
L1の水路西側:ソバ畑であった耕作地は堰上げ直後から冠水(水深10cm)し,クサヨシの単純な群落が発達した。L2の水路西側:水路に近いスギ植林は冠水(水深20cm)し,1年後にスギの立ち枯れが発生した。L1とL2の水路東側(湿原内):堰上げ直後から冠水地(最深30cm)ではノリウツギ,ハイイヌツゲ,ウワミズザクラ,チマキザサは枯死が始まり,1年後にはミヤマウメモドキ,ハンノキにも枯死が見られた。しかし,畝状の微高地では冠水することはなく,チマキザサ,カンボクなどは生残した。堰上げ2年が経過し,低木などの枯死は水路から湿原方向に10mの範囲で拡大,個体数も増加し,その部分ではカサスゲが繁茂した。