| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-216 (Poster presentation)
日本の高山地域では、登山者の増加やシカの食害、温暖化の影響によって植生が変化していることが指摘されており、その変化は主に現地における植生調査などで明らかとなっている。一方、10年オーダーのより長期間の植生変化を明らかにする代表的な手法として空中写真の判読による比較が挙げられるが、米軍による1940年代後半に撮影された空中写真以前のものはほとんど存在しないため、その対象は過去70年であり、それ以前は対象外であり、米軍の写真も大縮尺である。しかし戦前には、既に山岳地域には人為的なインパクトが大きくかかっており、本来の自然植生を明らかにするには不十分である。戦前に発刊された「山岳」「山と渓谷」「岳人」などの山岳雑誌には多くの風景写真が掲載されている。本研究ではこれら写真を収集し、同じアングルで現在の写真を改めて撮影することによって、その変化を明らかにした。対象地域は日本アルプスの中でも比較的山岳史の浅い南アルプスである。収集した写真は1906年~1979年の計156枚であったが、画像が不鮮明もしくは撮影地点が不明なものも多く、撮影地点が判明したのは全体の半数ほどであった。戦前の写真の多くはモノクロのものであったことからカラー化ソフトを用いて着色を行い、比較を行った。
戦前の写真には登山道がほとんど存在しなかったが、現在は登山道箇所がはっきりと線状の裸地となっており、周辺部に裸地化が進行していることが明らかになった。また1979年以前にお花畑であった地点の全てで、現在お花畑の消失、植被の減少がみられ、シカの不嗜好性植物の増加がみられた。その一方でハイマツ群落の面積は拡大し、植生高の増加傾向がみられた。
しかし、本研究では空中写真判読から導き出せれるような植生の面積変化比較を行えておらず、定量的な検討が出来ておらず、今後の大きな課題である。