| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-239  (Poster presentation)

どんな樹木種ほど大きく分布移動しているのか?〜稚樹と母樹の分布差を使った評価〜
Which type of tree species move wider: assessment from distributional difference between adult and juvenile trees

*小出大, 石濱史子, 角谷拓(国立環境研究所)
*Dai KOIDE, Fumiko ISHIHAMA, Taku KADOYA(NIES)

気候変動に伴う樹木の分布移動は、陸域生態系に大きな変化をもたらし得るものである。しかし、人間よりも寿命の長い樹木において、実際に分布移動を観測するには長い時間を必要とするため、観測の難しい対象と言える。一方で簡易的な分布移動の観測・評価手法として、樹木種の稚樹と母樹の分布比較がある。近年定着した稚樹と、遠い昔に定着した母樹で定着時期に大きな時間の差があるため、その間に生じた気候の変化に応答した稚樹と母樹の定着場所の差異を検出する手法である。この手法を用いれば、一時点の調査であっても生育適地の変化に応じた樹木の分布移動に関するする評価が可能となる。さらに、分布移動と種子の重量や散布形態などの樹種ごとの機能特性との関係の分析も可能になる。
本研究は、稚樹と母樹の分布差という簡易的な分布移動評価手法を用いて、日本全国における樹木種の分布移動評価を行うことを目的とした。この際、6-7回自然環境保全基礎調査の植生調査票データを用いて、亜高木層以上を母樹、低木層以下を稚樹として、稚樹・母樹ともに10プロット以上で出現した種を解析対象とした。解析された307種の平均では、稚樹と母樹それぞれの分布域における平均気温には差異があり、稚樹の方が母樹よりも0.16℃ほど寒い場所に分布していた。機能特性としては、種子の軽い樹種や日本の固有種で稚樹母樹差が大きい傾向が見られた。これらの結果は近年の温暖化に伴う定着場所の高緯度・高標高への移動を示唆するとともに、分散などの生態的プロセスにおける機能特性の重要さを明らかにしたものと考えられる。


日本生態学会