| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-240 (Poster presentation)
森林生態系の構造と動態は、シカ類の採食圧や台風による撹乱など、複数の撹乱の影響を受ける。ニホンジカCervus nipponの採食圧がある奈良県大峯山の針広混交林において,2005年から2015年までの防鹿柵内外の稚樹動態と森林動態を調査した。2008年から2019年にかけてのニホンジカの生息密度は,秋には10.1-24.0頭/km2でそれ以外の季節では低くなると推測された。アセビPieris japonicaを除くほとんどの樹種の小径木 (高さ ≥ 50 cm, DBH < 10 cm) は、ほとんどまたはまったく生育していなかった。総幹生育密度は、0 cm ≤ DBH < 5 cmで36.5%増加し、50 cm ≤ 高さ < 130 cmで19.6%減少、5 cm ≤ DBH < 10 cmで7.6%減少、10 cm ≤ DBH < 50 cmで1.9%減少し、 50 cm ≤ DBHは2.9%減少した。総胸高断面積は2005年の53.3 m2/haから2015年の52.5 m2/haに1.6%減少した。この期間の総胸高断面積の損失(-0.8 m2/ha)は主にツガTsuga sieboldii (-1.1 m2/ha) とブナFagus crenata (-0.5 m2/ha) に拠っている。柵内外の稚樹生育密度は、2005年で有意な差はなかったが、2015年では大きな差があった。柵外区では、アセビ以外の樹木の死亡率は0.71であり、アセビの死亡率である0.42よりも有意に大きかった。加入稚樹生育密度は、柵内区 (548.8幹/ha) と柵外区 (16,704.5幹/ha) の間に大きな違いがあった。これらは、ニホンジカの採食圧によって不嗜好植物のアセビを除く小径木が除去されたことを示している。一方、台風によってツガやブナの大径木が倒れることで林床の光環境は改善されたが、ニホンジカの圧力のために森林は再生できず、森林を構成する樹木の種組成が変化する可能性がある。