| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-242 (Poster presentation)
京都市北区に位置する深泥池にはミズゴケの浮島泥炭湿原(約3 ha)があり,冷温帯から亜寒帯にみられる遺存種やその他の希少種をまじえた水生植物が生育する貴重な生態系を形成している(三木 1929).深泥池湿原では2000年頃から頻繁にニホンジカが侵入し始め,予防的措置をとらなければニホンジカの侵入量が増加し湿原植生に影響する可能性があるとされていた(辻野ほか 2007).
本研究では,深泥池湿原において湿原植生とニホンジカの影響を調査した2006年の調査の再調査を2013年と2019年に行い,植物種の分布と植生の変化を調べたので報告する.
生育する植物の空間分布を定量的に明らかにするため,湿原上に幅1 m,長さ100 - 250 mのベルトトランセクトを東西方向に8 本設置し,これを160個の1×10 mの小区画に分割して,生育していた植物種と採食痕の有無を記録した.
計3回の調査で,シダ植物3種,裸子植物4種,被子植物の木本19種,草本57種が観察され,うち36種の維管束植物で採食痕が見られた.さらに17種では採食痕が見られた小区画の割合(被食率)が20%以上であり,ニホンジカの採食の影響が大きかった.
深泥池湿原の植生は2006年から2019年にかけて植生を構成していた大型植物のうち被食率の高かったアゼスゲとカキツバタ,ミツガシワ,ヨシ,マコモが大きく減少し,被食率の小さかったイヌノハナヒゲやツクシカンガレイが優占する植生に変化した.また,その間にタニヘゴとドクゼリ,セイタカヨシ,ガマなどの出現小区画数が0になった.
2006年から2014年にかけてニホンジカの湿原利用はおよそ7.6倍になったと推測されており (辻野ほか2015),2014年以降もニホンジカの湿原利用は減少していないと推測される(辻野ほか未発表)ことから,今後もニホンジカによる湿原植生と植物への影響は継続し,景観の変化と湿原植物の地域絶滅が発生すると考えられる.