| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-247 (Poster presentation)
ハスは花托と呼ばれる花の中心部分が発熱し、約3日間の開花期間中は昼夜問わず 30度から37度の間に維持される恒温性を持つ。自ら発熱する植物は幅広い分類群で確認されているが、恒温性を有する植物種は極めて少ない。ハスの発熱・恒温性は訪花昆虫を誘引し送粉を促すためと考えられるが、生態学的な研究例は限られておりその因果関係は不明である。一方ハスは観賞用(花ハス)や食用(レンコン)として広く栽培されており、園芸学的研究は活発に行われている。東京大学附属生態調和農学機構(東京都西東京市)では、野生種から園芸品種まで幅広く約300品種が栽培されている。これらの品種は花の形態(花弁数や色)や熱が発生する花托のサイズも多様であり、発熱や恒温性の程度も異なると予想される。また、開花期の6月~8月には様々な昆虫が訪花することが観察されており、結実に重要な役割を果たしていると考えられる。
本研究では、生態調和農学機構において多数のハス品種を対象に、花の発熱パターンを含む様々な花の形質を調べると同時に、各花への訪花昆虫相や結実率を調べ、品種間での形態的及び遺伝的変異を利用して「発熱・恒温性が訪花昆虫を誘引することでハス花の結実率を高める」という仮説を検証する。まずは訪花昆虫の観察手法を確立するため、各ハス花に自動撮影カメラを設置し花の開花中5秒に1回の頻度で写真撮影を行った。また品種ごとの花の形質(発熱の程度、花托体積、雄ずい数、雌ずい数、花弁数等)を測定し、発熱パターンの違いとの関連を調べた。12個の花を対象に日の出直前~日の入り直後約4日間タイムラプス撮影を行い、計11,000枚ほどで訪花昆虫が確認された。この中にはミツバチ類、コハナバチ類、ツマグロキンバエ、コアオハナムグリ、マメコガネ等が頻繁に確認された。本発表では、これまで得られた結果から花の形質の差による訪花昆虫相の違いを検討すると同時に、本研究の仮説の検証の実現可能性等を議論する。