| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-248 (Poster presentation)
エゾクロクモソウ(Micranthes fusca (Maxim.) S. Akiyama et H. Ohba)の送粉には、キノコバエ類が重要な役割を果たしていることが報告されている(Mochizuki & Kawakita 2017)。2018年に、長野県入笠山東山麓標高1600m地点で10秒間隔のインターバル撮影を行って訪花昆虫を調べた所、訪花昆虫の合計滞在時間の77%がキノコバエ類であり、22%がハナアブ科Syrphidaeという結果を得た。また、その近縁種で高緯度地方に分布するシベリアイワブキM. nelsoniana (D. Don) Smallには、ヒメイエバエ科Fanniidaeの昆虫が滞在時間78%、イエバエ科Muscidaeの昆虫が20%、カムチャツカ~北千島の固有種であるM. ohwii (Tatew.) T.Fukuda & H. Ikeda (=M. purpurascens Kom.)については、イエバエ科47%、ガガンボ科Tipulidae 47%であった(以上、2018年生態学会ポスターで報告)。キノコバエ類はシベリアイワブキには見られなかったが、その後の採集個体の同定により、M. ohwiiにはナミキノコバエ科Mycetophilidaeの訪花があったことが分かった。
2019年に、種としてのエゾクロクモソウのほぼ分布北限に相当する国後島で同様の方法で観察を行った所、やはりキノコバエ類が訪花することが確認された。ただし、長野での観察ではキノコバエ類の合計滞在時間が77%であったのに比べ、国後の個体では33%に過ぎず、長野では訪花の少なかったヒメイエバエ・イエバエ科が多くみられた(滞在時間で約31%)。一方、キノコバエ類の割合は、長野ではほとんどがナミキノコバエ科であったのに対し、国後ではクロバネキノコバエ科 Sciaridaeが75%を占めた。以上のことから、エゾクロクモソウの種内でもキノコバエ類の訪花の程度、キノコバエ類の中の科の割合が変化する可能性が示唆された。