| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-250  (Poster presentation)

ニシキギ属における特異な花香とキノコバエ媒送粉シンドロームの進化 【B】
Evolution of unique floral scent and fungus gnat-pollination syndrome 【B】

*望月昂(東京大学), 岡本朋子(岐阜大学), 王俊能(國立臺灣大學), 川北篤(東京大学)
*Ko MOCHIZUKI(Tokyo Univ.), Tomoko OKAMOTO(Gifu Univ.), Chun-Neng WANG(National Taiwan Univ.), Atsushi KAWAKITA(Tokyo Univ.)

双翅目昆虫はハナバチに並び重要な送粉者だと考えられている一方で、被子植物が双翅目を送粉者とするための適応に関する知見は極めて乏しい。近年、発表者らは主に日本に産する複数の植物がキノコバエ類という長角亜目の一群により送粉されることを見出し、微小な双翅目キノコバエを送粉者とする植物ギルドの存在を示唆した。これらのうち一部の植物は、暗赤色の花、短い花糸、露出した蜜腺、平たい花、発酵臭のような花香など他に類を見ない特徴的な形質セットを有することがわかっている。
 本研究では、キノコバエ媒植物ギルドに共有される花形質が送粉シンドロームであるという仮説を、ニシキギ科ニシキギ属植物およびクロヅル属を用いて検討した。まず、先行研究でキノコバエ媒が明らかになっていた暗赤色花3種に加え、北米、台湾に分布する暗赤色花種1種ずつ、および、日本に産する緑白色花種6種の送粉者を明らかにした。送粉者を調査した種については、TENAX、SPMEを用いたヘッドスペース法により花香成分の同定を試みた。中国産ニシキギ属を用いて構築された分子系統樹に、日本産種、北米産種を加え新たに構築した分子系統樹を用い、送粉者、花香、形態(花糸長)、花色の間の進化的関係を解析したところ、すべての形質間に有意な相関がみられた。祖先形質復元からは、ニシキギ属ではキノコバエ媒が少なくとも4回独立に進化しており、その度に暗赤色花が獲得されていること、3回に亘ってアセトインを主とする花香が進化していることが示唆された。
 アセトインを主とする花香は被子植物において稀であり、キノコバエが独自の選択圧を与える送粉者機能群であることを示唆している。花香における適応は送粉者の生活史に基づく選好性に左右されると考えられるため、多様な生活史形質をもつ双翅目昆虫は複数の機能群を内包し、これまで考えられてきたよりも多様で細やかな適応を植物にもたらしていると予想される。


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