| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-251  (Poster presentation)

虫こぶ形成性ハナホソガがコミカンソウーハナホソガ送粉共生系に与える影響
Effects of gall-forming Epicephala moth on the Glochidion-Epicephala pollination mutualism

*古川沙央里(京大・生態研), 川北篤(東大・理・植物園)
*Saori FURUKAWA(Kyoto Univ.), Atsushi KAWAKITA(Univ. of Tokyo)

コミカンソウ科植物とハナホソガ属ガ類は植物と種子食性の送粉者が互いに強く依存し合う送粉共生系のひとつである。ハナホソガの雌成虫は、宿主植物の雌花に能動的に授粉した後、その子房内部に産卵する。孵化したハナホソガ幼虫は果実内に複数ある種子のうち数個のみ摂食して成熟するので、ハナホソガ幼虫の食害を免れた種子により、植物も子孫を残すことができる。

コミカンソウ科植物には和歌山から沖縄本島にかけて広く分布するカンコノキと、八重山諸島以南に分布する姉妹種ヒラミカンコノキがある。この2種の植物は区別されることなく、ハナホソガ2種(Epicephala obovatellaEpicephala corruptrix)に送粉されている。E. obovatellaの幼虫は上述したように種子食者だが、もう一方のE. corruptrixはハナホソガの中では稀な虫こぶ形成者である。そこで、E. corruptrixが共生系のうち、特に宿主植物にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とした。まず、ハナホソガ2種間で、①地理的分布と遺伝的構造、②宿主への送粉や種子生産への貢献、③宿主利用についてそれぞれ比較した。加えて、宿主利用が違う原因を、ハナホソガに寄生するコマユバチ科の寄生蜂に着目して調べた。その結果、E. corruptrixは共生的形質が退化傾向にあり、E. obovatellaと比べてE. corruptrixが生息する地域では、健全種子の割合が著しく低下していた。E. corruptrixが琉球列島周辺で、単独で生息していることから、E. corruptrixは今後、宿主個体群の局所的な衰退を引き起こす恐れがあることが示唆された。つまり、元来共生者であったハナホソガが食性を変化させることで宿主の種子生産を低下させていることを示している。さらに、E. obovatellaと比べて、コマユバチが寄生できる果実内での滞在期間がE. corruptrix幼虫でより短く、実際の寄生率はE. obovatellaより低かった。したがって、E. corruptrixの虫こぶ形成性の進化に寄生回避が関与した可能性が高いことが考えられた。


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