| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-260  (Poster presentation)

堰堤上流に生息するイワナ稚魚の流下抑制適応:人口水路を用いた反復実験による検証
Drift avoidance adaptation in char fry inhabiting above-dam river section: examination from replicated experiment by artificial channel

*山田寛之, 岡本咲人, 中野遼, 和田哲(北海道大学)
*Hiroyuki Yamada hiroyuki YAMADA, Sakito OKAMOTO, Ryou NAKANO, Satoshi WADA(Hokkaido Univ.)

水圏に生息する生物にとって、流下は不適切な環境への移送や怪我、死亡のリスクとなる。サケ科魚類では流下リスクは成魚よりも稚魚で高く、稚魚の流下を抑制・回避する形質の進化(流下抑制適応)が期待される。とくに、高低差が大きな(例:3 m以上)堰堤の上流域の個体群では、ひとたび堰堤の下流側へ流下してしまうと、上流域に復帰できない可能性が極めて高い。そのため、高低差の大きな堰堤の上流域の個体群では、稚魚の流下抑制適応が特に期待できる。
演者は昨年の本大会でアマゴの稚魚を対象とした増水時の流下抑制適応に関する調査・実験結果を発表した。しかし、稚魚の流下は、増水時に限らず、平常時にも発生する。平常時の流下は低頻度ではあるが、長期的に安定して作用し続けている淘汰圧と考えられる。したがって、魚類の流下抑制適応に関する詳細な理解には、平常時の流下についても調べる必要がある。本発表では、北海道南部の小河川に生息するイワナ(Salvelinus leucomaenis)の稚魚を対象として、これを検証する。
本研究では、まず、約16 mの人工水路を利用して屋外実験を実施した。水路には等間隔で段差を設置し、その最上段に25個体の稚魚を放流した。放流の5時間後、段ごとに稚魚を回収した。そして、着目した形態形質と流下との関連性を解析した。その結果、尾柄長が長く、小型の個体ほど流下距離が長かった。次に、北海道南部の6個体群を対象に、堰堤の有無に着目した個体群間比較を行った。その結果、高低差の大きな堰堤の上流域に生息する個体は、堰堤の影響のない流域のの個体よりも小型で、体高が高かった。
以上の結果は、イワナの稚魚の形態形質が、部分的に、平常時の流下抑制適応という観点から説明できることを示唆する。気候変動の影響で雪解け増水や大雨による増水の強度が増大していることを踏まえると、流下抑制適応は今後さらに顕在化していくかもしれない。


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